転職を繰り返してキャリアがバラバラでも起業できる? 一貫性のない経歴を束ねる視点

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

これまで4回転職していて、職種も業界もバラバラです。営業も事務も接客も少しずつかじってきましたが、どれも中途半端で、自分には軸になる専門性がありません。こんな一貫性のない経歴でも、起業準備に使えるものなのでしょうか?

履歴書を見るたびに、何者でもない自分が情けなくなります。

起業前質問集

● 回答

転職が多い経歴を、起業準備の場で「使えないもの」と決めつける必要はありません。むしろ問い直したいのは、あなたが探している「一貫性」が、本当に必要なものなのかという点です。会社の履歴書が求める一貫性と、起業準備で効いてくる一貫性は、まったくの別物だからです。

履歴書は「同じ職種を何年続けたか」という縦の積み上げを評価します。一方で起業準備で効くのは、職種をまたいで毎回あなたが無意識にやっていた「同じ動き」のほうです。営業でも事務でも接客でも、自分だけは毎回そこに手をかけていた、という共通点が必ず一つはあります。そこを見つける作業から始めれば、バラバラに見えた4つの経験は、急に一本の線でつながります。

本当の問いは「一貫性」ではなく「共通項」

多くの方が、転職の多さを「芯のなさ」として悩みます。けれど、その悩み方には一つの思い込みが隠れています。起業準備で問われているのは経歴の見栄えではなく、別々の現場で繰り返し発揮してきた一つの動詞です。

たとえば、営業では顧客の言いたいことを先回りして資料にまとめ、事務では部署間の伝達ミスを橋渡しし、接客ではクレームを穏やかにほどいてきた。並べると職種はバラバラですが、「人と人の間に立って、こじれそうな話を整理する」という動詞は全部に通っています。これがあなたの共通項です。

職種という名詞で経歴を見ると芯がないように見え、動詞で見ると芯が浮かび上がります。見る角度を変えるだけで、同じ経歴の意味が反転するのです。

「一貫性がない」と感じる人が陥りやすい誤解

  • 名詞で経歴を見ている:
    「営業」「事務」「接客」という肩書きの羅列で自分を測り、つながりが見えなくなっています。
  • 専門性=長く続けた一職種だと思い込んでいる:
    起業準備では、複数の現場を横断した人だけが持つ視野の広さが武器になります。
  • 共通項を最初から大きく考えすぎる:
    「壮大な強み」を探すから見つからないだけで、探すのは地味な一動作で構いません。

転職を重ねた人が珍しい存在かといえば、そんなことはありません。総務省の労働力調査(詳細集計)では、2024年(令和6年)の1年間に転職した人は約331万人にのぼり、3年連続で増えています。そのぶん、複数の職種を経験した人材は社会のなかでむしろ普通になりつつあります。あなたの経歴は、特殊な失敗ではなく、これからの働き方の標準形に近いのです。

共通項を「最初の一人」に届く形まで絞る

共通項が一つ見えたら、次はそれを誰かに届く大きさまで絞り込みます。ここで参考になるのが、拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』で紹介している考え方です。売上0から1万円までのいちばん最初の段階では、大勢に向けて発信するより、たった一人の相手に喜んでもらうことだけを目指します。

バラバラの経験を一本に絞るとは、万人受けする肩書きを作ることではなく、目の前の一人が困っていることに自分の共通項を重ねる作業です。大きな看板を掲げる前に、まず誰か一人の顔を思い浮かべるところから始めれば十分です。

そして、その一人に出す最初の提案は、20点の出来で構いません。完璧な事業計画や立派な実績がそろうのを待っていると、いつまでも一歩目が踏み出せなくなります。荒削りでも一度差し出してみて、相手の反応で形を育てていく。これが、複数の経験を「使える形」に変えていく一番早い道です。

絞り込んだ共通項を、まず身近な一人に向けて試す。思い当たる相手がいたら、その人がいま何に困っていそうかを一度じっくり想像して、自分の共通項で手伝える場面がないか確かめてみてください。

バラバラの経歴を束ね直した会員さんの話

起業18フォーラムの会員さんで、五十嵐さん(仮名・40代・女性)という方がいました。アパレル販売、コールセンター、総務と、転職のたびに職種が変わり、ご本人いわく「何の専門家でもない自分」に長く引け目を感じていたそうです。最初は自己流で、過去の職種ごとに別々のスキルとして履歴を並べ直してみたものの、結局どれも浅く見えて、何を売りにすればいいのか分からなくなっていました。

転機は、起業18フォーラムの勉強会でした。他の会員さんが、自分と同じように雑多な経歴を「一つの動詞」で束ね直しているのを目の当たりにして、五十嵐さんは自分の見方が職種という名詞に縛られていたことに気づいたそうです。

その束ね方を手がかりに、自宅で過去の仕事を古い順に書き出し、毎回必ずやっていたことを自分でたどってみました。すると「新しく入った人がつまずく前に、手順を一枚にまとめて渡す」という動作が、どの職場でも共通していたのです。共通項を一本に絞れた瞬間でした。

そこから五十嵐さんは、その一枚を作る力を、小さな店舗向けの業務マニュアル作成という形に置き換えました。14か月目に、知人が営む整体院から「スタッフ用の受付マニュアルを作ってほしい」と頼まれ、初めての受注に至ります。

何者でもないと思っていた経歴が、初めて他人にお金を払ってでも欲しいと言われた。自分の共通項が、他人に売れる商品として成立したのです。その一件が、ご本人にとって何より大きな手応えになったと話してくれました。

バラバラの経歴を共通項に変える手順

  • 時系列に並べる:
    これまでの仕事を、肩書きではなく「やっていたこと」で古い順に書き出します。
  • 動詞を拾う:
    どの職場でも自分だけが手をかけていた一動作を、名詞ではなく動詞で抜き出します。
  • 一人に重ねる:
    その動詞で助けられそうな、身近な一人の困りごとを思い浮かべます。

共通項は、頭の中で考えていても見つかりません。一度すべてを書き出して、横に並べて眺めたときに、ようやく「あ、毎回これをやっていた」と浮かび上がってきます。今日できることは、これまでの仕事を時系列で棚卸しして、職種をまたいで毎回やっていた共通点を一つだけ見つけることです。

起業したいけど何から始めればいいですか?
● 質問 起業したいという気持ちはあるのですが、何から始めればいいのかわかりません。最初の1ヶ月でやるべきこと

転職の多さは、芯のなさではなく、まだ言葉になっていない共通項の多さです。名詞で数えれば散らばって見える経験も、動詞でたどれば一本につながります。情けないと感じてきたその履歴書こそ、あなたにしか描けない線の下書きです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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