記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
「やっぱり都会のほうが起業に有利でしょう」と、佐渡のような離島に暮らす方からよく聞かれます。26年にわたって会社員の起業を見てきた立場から言うと、それは半分しか当たっていません。私自身、最初は地方や離島では選べる仕事が限られると思い込んでいた時期がありました。
たしかに島には島の制約があります。けれど佐渡には、本土にはない資源と、本土の市場へまっすぐ届ける航路の両方があります。今日は、その二つをどう結べば会社員のあなたでも事業を組み立てられるのか、順を追って見ていきます。
佐渡という島の地理と産業を、まず正しく押さえる

佐渡は新潟県の沖合に浮かぶ、面積で言えば島としては国内有数の大きさを持つ離島です。本土とのつながりは佐渡汽船の航路が中心で、両津港から新潟港まではカーフェリーで2時間30分、高速のジェットフォイルなら67分で結ばれています。新潟駅から港までを足しても、首都圏との行き来が現実的な距離だという点は、事業を考えるうえで意外に大きな前提になります。
一方で、人口の現実は直視しておく必要があります。佐渡市の住民基本台帳人口は4万6,000人台まで減っており、65歳以上が占める割合も4割を超えています。島内だけを市場と考えると、人口減と高齢化という二重の縮小に最初からぶつかることになります。ここを見ないまま「島で何か始めよう」と動くと、足元から崩れてしまいます。
ただ、暗い数字ばかりではありません。2024年7月27日、相川鶴子金銀山などからなる「佐渡島の金山」が世界文化遺産に登録されました。17世紀には世界の金産出量のおよそ10分の1を担ったとされる鉱山遺跡が、いまは島の新しい看板になっています。
登録後の佐渡市の観光入り込み客数は、施設によっては前年比で2割以上伸びた月もありました。トキの野生復帰と、それを支える「朱鷺と暮らす郷」認証米のコシヒカリも含め、佐渡には外から人と関心を呼び込む素材がそろっています。
島の資源と本土の市場を結ぶ、という発想で考える

佐渡で事業を考えるとき、いちばん大事な発想の転換があります。それは「島の中だけで売ろうとしない」ということです。人口4万6,000人台の市場で会社員時代の延長を狙うと、すぐに頭打ちになります。そうではなく、島でしか手に入らないものを、本土や全国の市場へ届ける。その間をつなぐ役を自分が担う、と考えるのです。
佐渡には、米・トキにまつわる環境保全型農業・水産・観光という、本土の人がお金を払いたくなる素材が並んでいます。問題は素材の有無ではなく、それを欲しい人のところまで運ぶ通り道を誰も整えていないことのほうにあります。勤め先で培った段取り力や、資料をまとめる力、人と交渉する力は、まさにこの通り道を作る仕事で生きてきます。
観光客の動線に、関連する小さな商品を置く
島で来た人にもう一品買ってもらう。この考え方を、拙著『1億円稼いでいる人は何をしているのか?』では「ついで買い」を生む設計として紹介しています。メインの商品やサービスのまわりに、それを買った人がつい欲しくなる関連物を置いておく、という考え方です。
佐渡に当てはめると分かりやすくなります。たとえば金山やトキの森公園を訪れた観光客は、その流れのまま「持ち帰れる佐渡」を探しています。その動線上に、認証米の小袋や、島の作り手を紹介する読み物、帰宅後に取り寄せられる仕組みを置く。観光という太い人の流れのすぐ脇に、自分の小さな商品をそっと差し込むのです。ゼロから集客するのではなく、すでにある流れに乗せる。ここが島で事業を始めるときの勘どころです。
- 持ち帰れる副産物:
認証米の小袋や干物など、観光の帰り際に手が伸びる土産品 - 満足度を高める追加物:
作り手の物語を添えた読み物や、産地を案内する短いガイド - 帰宅後につながる仕組み:
家に帰ってからも取り寄せられる定期便や、季節の便り
どれも、大きな設備や資本がなくても始められます。会社員のうちに、週末や休暇で島に通いながら少しずつ形にしていけるものばかりです。
観光の季節波を、冬の閑散期にどうならすか

佐渡で観光に関わる事業を考えるとき、必ず向き合うことになるのが季節の波です。フェリーの便も観光客も、春から秋に厚く、冬は薄くなります。観光の現場で働いた経験のある方なら、繁忙期に売上が集中し、冬になると一気に静まる感覚は身にしみているはずです。この波をそのまま受け止めていると、年間の収入はどうしても不安定になります。
だからこそ、最初の設計で「冬に何を売るか」を決めておきます。繁忙期に島で売った商品やサービスを、閑散期にはオンラインの販路で全国へ届けられる形に組み替えておくのです。夏に島で対面で関係を作り、冬はその人たちに向けて取り寄せや情報発信を続ける。こうすると、人が来ない季節こそ、本土の市場とつながる時間に変わります。
この組み替えは、勤めているいまから準備できます。島に通って素材と関係を仕込むのが繁忙期、自宅で販路や発信の仕組みを整えるのが閑散期。季節の波を消そうとするのではなく、波の谷を別の収入で埋める発想に切り替えると、島の不利が一気に薄まります。
佐渡で観光に関わる人が、冬の収入をつくり直すまで

佐渡で実際によく見るのは、こんな歩みです。島で観光関連の仕事に就いていた会社員の本間さん(仮名・40代)に近い例として描いてみます。本間さんは島の繁忙期にはしっかり忙しく動けるものの、冬になると仕事が細り、収入の谷が毎年気がかりだったといいます。
はじめのうち、本間さんは「島でもっと観光客を増やすには」ばかりを考えていました。けれど島に来る人の数は季節や天候に左右され、自分の力ではどうにもなりません。打ち手が島内の集客に偏っているうちは、冬の谷はいつまでも埋まらなかったのです。
潮目が変わったのは、本間さん自身がある冬、ふと気づいたことからでした。繁忙期に対面で仲よくなった島外の常連客が、帰ってからも「あの佐渡の米をまた送ってほしい」と連絡をくれていた。島で人を増やすことばかり考えていたが、すでにつながった人に島の外で届け続けるほうが、自分には現実的だと腹に落ちたのです。そこから本間さんは、繁忙期に作った関係を冬に活かす形へ、事業の重心を移していきました。
具体的には、夏のあいだに島の作り手と組んで認証米や加工品の取り寄せの仕組みを整え、繁忙期に出会った人へ冬に季節の便りを送るようにしました。観光客を一から集めるのではなく、一度会った人との関係を細く長く続ける形です。一年ほどたつと、本間さんの冬は「仕事がない季節」ではなくなりました。売上の大きさよりも、冬にも頼られる相手がいるという手応えが、何より気持ちを楽にしてくれたそうです。
もう一つ大きかったのは、常連客が知人を紹介してくれるようになったことです。島で過ごした時間そのものが商品の価値になり、冬の販路がゆっくりと太くなっていきました。季節の波を消したのではなく、波の谷に別のつながりを通したことが、転機になったのです。
佐渡で使える支援と、会社員の今日からできること

佐渡には、離島ならではの支援があります。佐渡は内閣府が指定する特定有人国境離島地域にあたり、佐渡市は雇用増を伴う創業や事業拡大をする事業者に対して、機器の購入費や店舗の改修費、登記の手続費の一部を補助する雇用機会拡充事業を設けています。移住を考える人向けには、総合受付窓口として「さど くらし テラス」も置かれています。こうした制度は、行き先が決まった人にとっては強力な後押しになります。
ただし順番を間違えないことです。補助金や移住支援は、何で食べていくかが見えてから使う道具であって、それ自体が事業の出発点にはなりません。何を売るかが決まっていない段階で窓口に相談に行っても、担当の方も答えようがありません。まずは島の資源と本土の市場をどう結ぶか、その方向性を自分の中で固めるほうが先です。
方向性を整えるうえで、いきなり移住に踏み切る必要もありません。勤めを続けながら週末や休暇で島に通い、関係人口として作り手や地域とつながりながら準備する。二拠点で島と本土を行き来し、手応えが出てから移住を考える。お試し移住や期間限定の滞在から入る道もあり、退路を断たずに始められる選択肢は思っているより多くあります。
そのうえで、制度の具体的な中身は地域の窓口がいちばん正確に教えてくれます。佐渡で事業を考えるにせよ、いまお住まいの土地で準備を始めるにせよ、最初の確認先は同じです。お住まいの市区町村の産業振興課か商工会に、創業相談の窓口があるか一度問い合わせてみてください。地元ならではの補助や、先に動いた人の話が見つかることがあります。

島が不利かどうかは、島の中だけで考えるか、本土とつなげて考えるかで景色が変わります。今日できることは、お住まいの地域の創業相談窓口がどこにあるかを一つ確かめるだけで十分です。佐渡という小さな看板を、自分の手で掲げる一歩は、その確認から始まります。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
