記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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起業のご相談に乗ってきた26年の間に、「私は家事くらいしかしてこなかったので」と自分の経験を低く見積もる方に、数えきれないほど出会ってきました。けれど現場で見てきた限り、家事代行で長く続く人の武器は、特別な資格ではありません。毎日の家事で磨かれてきた、段取りと気配りの力です。
この記事では、家事代行で起業したい方に向けて、資格の要否、FC加盟・マッチングサービス登録・個人開業という3つの道の選び方、最初のお客様にたどり着くまでの順番を紹介します。
「名もなき家事」のスキルは、本当に商売になるのか

献立を考えながら冷蔵庫の在庫を頭に入れておく。洗濯物を干す順番で乾き方を変える。来客の前に、どこから片づければ印象が変わるかを瞬時に判断する。名前のつかないこうした作業を、世間は「名もなき家事」と呼びます。
やっている本人にとっては当たり前すぎて、値段がつくとは思えないものです。ところが、お金を払ってでも任せたい人の側から見ると、景色がまったく違います。家事代行のお客様が買っているのは作業の代行そのものではなく、自分の代わりに家の中の優先順位を判断してくれる頭脳です。掃除の腕前だけなら機械でも補えますが、その家に合わせた段取りの設計は、家事を回し続けてきた人にしかできません。
では、市場に伸びしろはあるのでしょうか。ここで見ておきたい数字があります。経済産業省の令和4年度委託調査(家事支援サービス業の実態把握に係る調査)では、家事支援サービスを利用したことがある人の割合は1.8%にとどまると報告されています。
裏を返せば、残りのほとんどの家庭は、まだ誰にも家事を頼んだことがありません。価格への迷いや、他人を家に入れることへの抵抗感が壁になっているだけで、困りごと自体は山ほどあります。この壁を越えてもらう工夫こそが、これから始める個人の腕の見せどころになります。
資格は必要? 開業費用はいくら? 先に確かめておくこと

まず結論からお伝えすると、家事代行を始めるのに国家資格は要りません。掃除や料理、整理収納の代行は、法律上の許認可なしで開業できます。整理収納アドバイザーなどの民間資格は信頼の後押しにはなりますが、取得してから始める決まりはありません。
お金の面でも、構えるほどの金額は要りません。日本政策金融公庫総合研究所の「2024年度新規開業実態調査」によると、開業費用の平均は985万円ですが中央値は580万円で、250万円未満で開業した人が20.1%を占めています。同じ調査では、開業者に占める女性の割合が25.5%と調査開始以来の最高になりました。家事代行は店舗も仕入れもほぼ不要なため、この少額開業の流れに最も乗りやすい分野のひとつです。
道具は使い慣れた掃除用具から始められますし、移動は自転車や公共交通でも成り立ちます。ただし、お客様の家財を扱う仕事なので、物損に備える損害賠償保険への加入だけは開業前に確かめておきたいところです。マッチングサービスやFC本部には、保険があらかじめ組み込まれている仕組みもあります。
FC加盟・マッチング登録・個人開業。3つの道の選び方

家事代行の始め方は、大きく3つに分かれます。それぞれの性格を知ってから選ぶと、遠回りを避けられます。
- FC加盟:
研修・ブランド・集客の仕組みを本部から借りられる一方、加盟金やロイヤリティの負担がある - マッチングサービス登録:
初期費用を抑えて今の生活のまま試せる。仲介手数料は引かれるが、最初の実績づくりに向く - 個人開業:
料金もサービス内容も自分で決められる自由がある。集客と信用づくりを自力で積む覚悟が前提
迷ったら、順番で考えてみてください。最初はマッチングサービスで実績と口コミを積み、指名のお客様が増えてきた段階で個人契約や独自メニューに広げていくのが、リスクの小さい王道です。FC加盟は、まとまった自己資金があり、最初から事業として大きく構えたい人向けの選択になります。
どの道を選ぶ場合も、条件の確認だけは慎重に進めてほしいのです。加盟金・手数料・最低稼働時間などの条件は、説明会の口頭説明だけで決めず、必ず書面で確かめてください。納得して選んだ仕組みなら、多少の手数料は「集客と信用を借りる費用」と割り切れます。
選ばれる人がやっている「ギブ&ギブ」の信用づくり

仕組みを選んだら、次は「どうすれば次も自分に頼んでもらえるか」です。ここで効くのが、見返りを先に求めない姿勢です。拙著『起業神100則』では、ギブ&テイクではなくギブ&ギブという考え方を紹介しています。返ってこないかもしれないことを承知の上で先に差し出すことが、信用という見えない資産を積み上げる唯一の方法だからです。
家事代行なら、このギブは難しいことではありません。たとえば、こんな小さな積み重ねです。
- 訪問前の聞き取りメモ:
苦手な家事や触れてほしくない場所を先に聞き、不安を減らしてから伺う準備 - 作業後のひと言レポート:
今日やったことと気づいた点を、短い手書きメモで残して帰る習慣 - 次回までのひと工夫:
排水口の予防掃除など、頼まれていない一手間を時間内でそっと足す心配り
どれも追加料金を取るほどのことではありません。けれど、頼んだ側の記憶には強く残ります。「あの人は家のことを自分ごとで考えてくれる」と感じてもらえた瞬間に、単発の利用は指名の定期契約へと変わっていきます。広告費をかけるより先に、目の前の一軒への小さなギブを増やすほうが、結果として近道になります。
定期契約が月2件で止まっていた真田さんに起きた変化

起業18フォーラムの会員さんに、真田さん(仮名・40代女性)という方がいます。勤めて12年目になる流通系の会社でパート勤務を続けつつ、マッチングサービスに登録して家事代行を始めた方です。最初は自己流でした。掃除も料理も整理収納も全部できますと幅広く並べ、料金も相場よりかなり低く設定していました。
ところが、安さで入った依頼は単発で終わってしまい、10ヶ月目に入っても定期契約は月2件のまま。「やっぱり主婦の経験なんて、誰でもできることなのかな」と弱気になっていたそうです。
風向きが変わったきっかけは、練習台になってもらった元同僚の率直なひと言でした。「料金が安いから頼んだわけじゃないよ。作業の前に台所の動線とか家族の生活時間を聞いてくれたでしょう。あれが一番ありがたかったのに、どこにも書いてないね」。自分が無意識にやっていた聞き取りこそが価値だったと、このとき初めて気づいたといいます。
その後、真田さんは起業18フォーラムに参加し、勉強会でギブ&ギブの考え方を学びました。そして、やり方を2つ修正します。何でも屋の看板を「共働き家庭の平日をラクにする定期サポート」に絞り、訪問前の聞き取りと作業後のひと言メモを無料で必ず添える型に変えたのです。安売りはやめて、料金は相場並みに戻しました。
すると、メモを見たお客様が「次も同じ人で」と指名してくれるようになり、その紹介で隣の棟のご家庭からも声がかかりました。1年ほどかけて、定期契約の世帯は月2件から指名での10件まで増えています。数を追うより先に、目の前の一軒に小さなギブを一つ足すことから始めてみてください。真田さんの変化は、その積み重ねの結果でした。
よくある質問

家事の経験しかありませんが、本当に始められますか?
始められます。家事代行に国家資格は不要で、お客様が求めているのは特別な技術より「安心して家を任せられる人柄と段取り」です。長年家庭を回してきた経験は、その両方をすでに満たしています。不安なら、まずマッチングサービスで数件だけ試し、お客様の感想で手応えを確かめるのが確実です。
料金はいくらに設定すればいいですか?
登録するサービスの標準価格帯か、地域の相場に合わせるのが出発点です。経験が浅いからと相場を大きく下回らせるのはおすすめしません。安さで集まる依頼は単発で終わりやすく、消耗するだけだからです。価格は標準のまま、聞き取りやメモといった目に見えない丁寧さで差をつけるほうが、長く続きます。
開業届や確定申告はいつ必要になりますか?
個人事業として継続的に収入を得るなら、税務署への開業届と、所得に応じた確定申告が必要になります。ただ、順番としては最初のお客様と実績づくりが先で大丈夫です。報酬の記録だけは初回から残しておき、収入が形になってきた段階で、税務署や自治体の無料相談窓口で確認すると迷いません。
家事代行は、始めるハードルが低いぶん、続けて選ばれる工夫で差がつく仕事です。あわせて、家事や家庭との両立を前提にした準備の進め方は、こちらの記事で具体的な手順を紹介しています。

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