沖永良部島で起業する手順|人口1万2千人の離島で農業と花卉と観光を組み合わせる

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

沖永良部島は鹿児島県の南西、奄美群島の南西部に位置する離島です。中小企業庁『中小企業白書』(2024年版)でも離島地域の小規模事業者向け支援策が論点として扱われていますが、現地の人口規模としては和泊町約6,300人、知名町約5,700人を合わせて約1万2,000人になります(令和2年国勢調査)。鹿児島本土からは飛行機で約1時間20分、那覇からも飛行機で約60分という、本土と沖縄本島の間にある立地です。

主産業は農業で、サトウキビ・じゃがいも・花卉栽培(特にエラブユリ・テッポウユリ)が中心です。花卉栽培は全国でも有数の生産量を誇り、エラブユリは島名を冠した代表的な品目になっています。製糖・黒糖焼酎の製造業も歴史が長く、観光ではケイビング(鍾乳洞探検)やダイビングという離島ならではの体験型コンテンツが育っています。

ポイント 沖永良部島で起業する強みと条件

人口1万2千人・2町で構成される島の特徴

沖永良部島

沖永良部島で起業する最大の強みは、人口1万2,000人という規模が「全員が顔見知りになる狭さ」と「ひとつの業種に依存しないで暮らせる広さ」のちょうど中間にあることです。人口500人の離島と違って1業種だけでは食べていけない厳しさが消え、人口10万人の地方都市と違って同業者の顔と名前が1年で全部頭に入ります。

奄美群島振興開発計画という追い風

国土交通省・総務省・農林水産省が所管する奄美群島振興開発特別措置法に基づき、鹿児島県は令和6年度から令和10年度までの「奄美群島振興開発計画」を令和6年に策定・公表しています。沖永良部島はこの計画の対象地域に含まれており、農林水産業、ものづくり、観光/交流、情報通信業の4分野が「稼ぐ力」の重点分野として位置づけられています。総務省の特定地域づくり事業協同組合制度(令和2年6月施行)も合わせて活用できる仕組みです。

  • 対象期間:
    令和6年度から令和10年度の5年計画
  • 重点分野:
    農林水産業、ものづくり、観光/交流、情報通信業
  • 支援内容:
    利子補給、創業時経費補助、人材育成
  • 窓口:
    鹿児島県と各町商工会

ここで会員さんの事例を紹介します。40代後半の男性・元IT系営業のKさんは、東京で15年間IT系の営業を続けたあと、沖永良部島で起業準備を始めました。本業を続けたまま有給休暇と土日を組み合わせて2回現地を訪問し、和泊町商工会と「えらぶ島づくり事業協同組合」の事務局にそれぞれ1時間ずつ面談を入れています。

ポイント 「えらぶ島づくり事業協同組合」と特定地域づくり事業協同組合制度の活用方法

和泊町と知名町で進む特定地域づくり協同組合

沖永良部島

沖永良部島には、国の「特定地域づくり事業協同組合制度」を使って設立された「えらぶ島づくり事業協同組合」が稼働しています。和泊町・知名町の2町で、島内の複数事業者の仕事を組み合わせ、季節ごとの人手不足に対応する仕組みです

特定地域づくり事業協同組合制度とは、人口減少地域で「年間を通じた仕事が1つの事業者では作れない」という構造課題を解決するための制度です。協同組合が複数の事業者からの仕事を組み合わせて派遣社員に通年雇用を提供する、というシンプルだけれど画期的な仕組みです。

えらぶ島づくり事業協同組合は、農業や観光など島内の複数事業者の仕事を組み合わせる形で、季節と業種をまたいだ雇用づくりに取り組んでいます。農業の繁忙期は花卉農家へ、観光の繁忙期は観光事業者へ、というように、島内の繁閑差をならす役割が期待されています。

起業準備に組合をどう使うか

会員さんの中には「協同組合は移住者向けで自分には関係ない」と思い込んでしまう方がいます。しかし起業準備の早い段階で組合事務局や町の窓口に問い合わせ、公開されている募集情報や説明機会を確認することをおすすめします。理由は3つあります。

  • 島内ネットワーク:
    組合や町の窓口を通じて、島内事業者の困りごとを知る接点ができる
  • 市場の本音:
    募集情報や事業者の声を通じて各業種の繁閑と人手不足の実態が見える
  • 事業の検証:
    条件が合えば、島内で働きながら自分の事業仮説を実地で検証できる

Kさんは「えらぶ島づくり事業協同組合」と町の情報を調べ、オンラインで確認できる募集情報や島内事業者の発信を読み込むことから始めました。移住前から島の事業者の顔と名前を少しずつ覚えていったことが、現地訪問時の会話につながりました。

南北連携プロジェクトという広域連携モデル

沖永良部島では、北海道との広域連携が2つの形で進んでいます。

ひとつは、知名町が主体となって推進する「南北連携プロジェクト」です。沖永良部島(知名町)と北海道の利尻島(利尻町)を組み合わせた取り組みで、繁忙期がちょうど逆になる2島に半年ずつ居住・就労する仕組みです。一般社団法人ツギノバが実施主体となり、一般財団法人地域総合整備財団(ふるさと財団)がサポートしています。

冬の沖永良部島は花卉栽培の繁忙期、夏の利尻島は昆布漁と観光の繁忙期です。1つの離島では作れない通年雇用を、2島連携で作るという発想です。

もうひとつは、えらぶ島づくり事業協同組合が実施する農業産地間連携です。農繁期が異なる北海道(道南・八雲町)や京都府(丹後地域)と労働力を融通し合う体制を構築し、島の農業の担い手確保に取り組んでいます。

どちらの仕組みも全国でもまだ事例が少なく、本業の専門スキルを複数地域それぞれの事業者に活かす形で連携の中に入っていく方も出てきています

ポイント 農業×花卉×観光の3業種組み合わせモデル

単一業種に依存しない収入設計と組み合わせ方

沖永良部島

沖永良部島で起業する場合、単一業種に依存せず複数業種を組み合わせる設計が現実的です。理由は、農業も観光も季節変動が大きく、年間を通して安定収入を作るには複数業種の組み合わせが避けられないからです。

具体的な組み合わせ例を3パターン挙げます。

  • 農業×ECサイト:
    花卉農家を本業に据え、冬の繁忙期はエラブユリ・テッポウユリの直販EC、夏は加工品(ドライフラワー・押し花アクセサリー)を販売する組み合わせ
  • 観光×ガイド:
    ケイビングまたはダイビングのガイドを核に、本業時代のスキルでツアー予約サイトの構築・SNS集客・英語対応の3つを上乗せする組み合わせ
  • 食×情報発信:
    黒糖焼酎・島料理の体験プログラムを核に、本業時代のマーケティング経験を生かして島外のリピーター獲得とSNS発信を担当する組み合わせ

Kさんが選んだのは農業×ECサイトの組み合わせでした。本業時代に和泊町の花卉農家3軒に連絡を取り、繁忙期だけ収穫補助のアルバイトを受けながら「直販ECの立ち上げを手伝わせてください」と申し出ています。

起業準備を進めるときに大切なのは「自分が島の事業者から見てどんな貢献ができるか」を本業のスキルベースで言語化することです。マーケティング・営業・IT・経理・人事・物流など、本業で当たり前のように使っているスキルが、島の小規模事業者にとっては希少資源になります。

ここで拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』にも「商品は顧客に教えてもらう」という視点があります。沖永良部島での起業準備では、自分の商品仮説を持ったうえで、島の事業者と消費者に教えてもらう姿勢で動くと、半年で事業の輪郭が見えてきます。

ポイント 沖永良部島起業の落とし穴と先輩失敗パターン

夏のハイシーズンと冬の現実を読む経営視点

沖永良部島

沖永良部島での起業を検討する方が陥りやすい失敗パターンを3つ整理します。

  • 観光客の見え方とのギャップ:
    夏のハイシーズンに観光で訪れた島の印象と、台風と長雨で続く11月から2月の島の景色は別物
  • 家賃と物価の現実:
    本土と比べて家賃は安いが、生活物資の輸送費が乗るためスーパーの食材は1割から2割高い
  • 島内ネットワークの優先:
    最初の半年は本業のスキルを売り込むより、地元行事と組合活動への顔出しを優先する

Kさんも最初はつまずいています。本業時代に「自分のスキルは島では希少だから売れる」と思い込み、移住前から島の事業者に営業メールを送り続けていました。返信率は1割を切り、半年経っても具体的な仕事には繋がりませんでした。

島の事業者にとって、まだ顔を見たことのない人からの売り込みメールは「面倒で警戒すべきもの」として扱われます。Kさんはこのつまずきの後、起業18フォーラムの勉強会に参加しています。

そこで「島内ネットワークは自分の足で歩いて作る順番が逆になっている」という指摘を受けました。学びを修正し、メール営業を全停止して有給休暇を使った現地訪問の回数を倍に増やしています。和泊町商工会・知名町商工会・えらぶ島づくり協同組合の3箇所をそれぞれ2回ずつ訪問し、顔と名前を覚えてもらうことに半年を使いました。

修正後の動き方は明確でした。島内ネットワークを作るのは「本人+協同組合×2」の三角構造で動くと早いという発見が、Kさんの起業準備の分岐点になりました。現在Kさんは和泊町ベースで月収32万円(花卉EC18万円+ガイド10万円+協同組合派遣4万円)に到達しています。

ポイント 半年離島・半年本業の南北連携モデル

朝晩30分の準備時間で育てる2拠点設計の型

沖永良部島

沖永良部島での起業準備を本業と並行して進めるとき、もっとも現実的な進め方は「朝晩30分の準備時間を本業のスケジュールに組み込むこと」です。

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』には、本業と起業準備を両立させるための時間設計が書かれています。朝の30分は情報整理と現地連絡、夜の30分は学習と発信、というように毎日60分の起業準備時間を半年積み上げると合計約180時間、これは現地に有給で滞在する約3週間分(1日8時間換算で約22日分)に相当します

  • 朝30分の使い方:
    ニュース・SNSで沖永良部島の最新動向を確認・現地事業者へ1件のメッセージ
  • 夜30分の使い方:
    著書・専門書での学習・noteまたはXで島の魅力を週1本発信
  • 月1回の使い方:
    オンライン勉強会への参加・月次ふりかえりノートで進捗整理

半年間この時間設計を続けた段階で、現地訪問のタイミングを年2回作ります。お盆休みと年末年始ではなく、現地事業者が動いている平日の有給休暇を選びます。現地訪問の目的は観光ではなく「人に会うこと」に絞り、1日で3件から5件の事業者・商工会窓口を回ります

朝の30分で起業準備は本当に進む? 子育て中エンジニアが積む4STEPは
● 質問 30代後半、自動車メーカーの設計エンジニアです。3歳の子どもが起きる前の朝5時から30分だけ起きて準

沖永良部島と利尻島の南北連携に関心がある方は、知名町と一般社団法人ツギノバの窓口に問い合わせてみてください。えらぶ島づくり事業協同組合への問い合わせは、島内でのマルチワークや農業産地間連携を活用した起業準備に役立てることができます。半年ずつ滞在しながら本業の経験を活かす形で関わることで、退職前提ではない島での起業準備が現実的に動き始めます。小さな1歩を続ければ、半年後に島での暮らしの輪郭が見えてきます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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