記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「あと5年で定年か。同期はもう動いているらしいけれど、自分は何から手を付ければいいのかわからない」。先日、起業18フォーラムの面談で50代後半の元部長さんからいただいた最初のひと言です。
定年まで残り5年。気持ちは焦るのに、何から始めればいいかが見えない。今日の記事は、同じ立場から動き出した先輩たちが「最初の半年で何をやっていたか」を、時系列に並べてお話しします。
5年逆算で考える、最初の半年の位置づけ

日本政策金融公庫が2025年12月に公表した「2025年度新規開業実態調査」によると、開業費用の平均値は975万円ですが、中央値は600万円で、長期的にみると少額化の傾向が続いています。
「250万円未満」が20.1%、「250〜500万円未満」が21.7%と、合わせて4割以上の方が500万円未満で開業しています。50代から始める場合は、退職金を全額つぎ込む必要はなく、むしろ少額で試して伸ばすほうが現実的です。
同調査では、開業時に苦労したこととして「資金繰り・資金調達」「顧客・販路の開拓」「財務・税務・法務知識の不足」が上位に挙がっています。50代の場合、本業の役職経験はあっても、自分で売る経験・自分で計算する経験が一気に薄くなります。最初の半年は「お金の準備」より先に「売る経験を1件積む」ことに時間を投下した方ほど、後半4年半の歩留まりが格段に良くなります。
先輩が最初の半年でやっていた3つのこと

先に動き出した先輩たち、たとえば大手メーカーで部長まで務め、現在は中堅企業向けに研修プログラムを提供している田島さん(仮名・55歳・部署縮小通告がきっかけ・配偶者は会社員・子は独立済)が、最初の半年でやっていたのは次の3つでした。
- 自分の業務経験のうち、社外の人に説明しても伝わるものを書き出す
- その経験で困っていそうな人を、社外の知人ネットワークから3人探して話を聞く
- 「無料でいいから1回だけやらせてほしい」と頼んで小さな実体験を取りに行く
田島さんが最初に動いたのは、ある月曜の朝、社内の役職会議の議事録を取りながらの作業でした。「自分が長年やってきた業務改善の整理は、外の中小メーカーでは誰にも教わっていない領域ではないか」という1つの気づきが、最初の半年の起点になっています。
そこから1ヶ月以内に大学同窓会のつてで地方の中堅メーカー経営者と面談し、無料の業務棚卸しを引き受け、3ヶ月目に最初の有料モニター契約(半日5万円)、半年目に継続案件3社・月35万円まで届きました。現在は本業と並行しながら、退職後の事業の輪郭が見えてきた状態です。
注目してほしいのは、田島さんが資格を取りに行ったり、ホームページを作ったり、肩書きを考えたりに最初の半年を使わなかったことです。手を動かしたのは「自分の経験を社外の1人に説明する」「無料で1回試す」という、ごく小さな現場の動きでした。
5年逆算ロードマップの骨格

5年あれば焦らなくて済みますが、漠然と「5年で何とかしよう」では止まります。半年単位で何をしているかの像を持つと、毎月の判断が楽になります。先輩たちが共通して通ってきた節目を、半年単位で並べると次のようになります。
0〜6ヶ月目:経験の言語化と無料の実体験
自分の業務経験を社外の言葉に翻訳する期間です。先輩の田島さんがやったように、無料モニター1件で「外で通用するか」の感触を取りに行きます。退職金や独立資金の話は、この時点ではまだ調べる段階で十分です。
6〜18ヶ月目:有料の1件目と継続契約の芽
無料モニターの感触を有料サービスに変換する時期です。単発で何万円かを受け取る経験は、貯金が減らないだけでなく「自分の経験には値段がついた」という具体的な手応えを残します。この時期に継続契約の芽が1つでも出ると、退職後の収入像が現実味を帯びます。
18〜36ヶ月目:本業と並行しながら売上の柱を2本に
収入の柱が1本だけだと、相手都合で消えたときに振り出しに戻ります。法人継続契約+個人スポット、研修+執筆など、性質の違う柱を2本作るのがこの時期の課題です。
36〜60ヶ月目:退職後の運営体制と最後の整え
事業の輪郭が見えてきたら、税理士・行政書士・継続クライアントへの正式説明など、退職移行の事務的な整えに入ります。この段階で初めて、開業届・屋号・銀行口座の手続きに集中しても遅くありません。
動けなくなる50代に共通する3つの止まり方

面談でよくお見かけする「最初の半年で止まる人」には、共通した動き方の癖があります。次の3つに心当たりがあれば、今日から外しに行ったほうが半年後の景色が変わります。
- 退職金額の試算と税制の勉強だけで半年が過ぎてしまう
- 「自分にはスキルがない」と決め込んで業務経験の棚卸しを後回しにする
- 資格や講座の比較を続けて、社外の人と一度も話さないまま時間が経つ
退職金や税制は大事ですが、それは外で通用する経験を1件作ったあとに整えても遅くありません。逆に、いくら制度に詳しくなっても、外で売る経験ゼロでは退職後の収入は立ちません。50代の起業準備で本当に怖いのは、知識を増やすことに半年・1年と時間を使い、社外の1人と話す体験を後回しにしてしまうことです。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』に「100階段カリキュラム」という考え方が出てきます。100段ある階段を一気に駆け上がろうとしても足は止まりますが、1段ずつ、月1段でいいから上がる設計にしたほうが結果として早く頂上に着く、という話です。50代の5年逆算は、まさにこの100階段の積み方が試される期間です。
今日この瞬間からやってほしいのは、自分の業務経験のうち「社外の知人に説明しても伝わりそうなもの」を、1つだけ紙に書き出してみることです。書き出した瞬間に、次に話す相手が1人浮かんでくるはずです。
面談に来られる50代の方によくお伝えするのは、半年後の自分にどう見られたいかという視点です。半年後の自分から逆算したときに「いま何をしている自分でいてほしいか」を、紙の隅に1行書き添えると、毎週末の動きの軸がぶれません。

5年あるからこそ、半年単位で動く

5年という時間は長いようで、油断するとあっという間に1年が過ぎます。長さに甘えず、最初の半年で「自分の経験を社外の言葉に翻訳して、無料で1回試してみる」ところまで進めれば、後半4年半は驚くほど整っていきます。
速度は落としてもいい時期です。けれど方向だけは、退職金の試算ではなく社外の1人との対話に向けてください。半年後、机の上には「無料でやらせてもらった1回」の手応えが残っているはずです。
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