記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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那覇の泊港から高速船で約40分。慶良間ブルーで世界に知られる渡嘉敷島は、人口653人(2024年8月時点・渡嘉敷村役場住民基本台帳)の小さな島に、年間10万人を超える観光客が訪れます。「ここで暮らしながら好きなことで食べていけたら」と一度でも考えた人は少なくないはずです。
ただ、人口100倍の観光客に対して島内の事業者は限られ、補助金や創業支援の選択肢も本島とは事情が違います。本記事では、26年間で6万人を超える起業希望者を見てきた立場から、渡嘉敷島で起業を考えるときに最初に押さえておきたい構造と、会社員のまま無理なく準備していく道筋を整理します。
渡嘉敷島で起業を考える前に知っておきたい構造

渡嘉敷島がほかの離島と決定的に違うのは、那覇との距離です。泊港から高速船「マリンライナーとかしき」で約40分、フェリー「フェリーとかしき」で約70分。事実上、那覇から日帰りできる距離にある離島です。これが、起業を考えるときの組み立てを根本から変えます。
島の人口は653人。一方で年間来島者は10万人を超え、島内人口の100倍以上が1年間で行き来します(渡嘉敷村観光協会・ウィキペディア掲載値)。全産業従事者の約90%以上が第三次産業に集中し、ダイビング、民宿、飲食、ガイドが主要な収入源です。漁業・農業従事者はいずれも5%未満で、観光と直接結びつかない事業領域はかなり限られます。
「特定有人国境離島」ではない島という前提
ここはひとつ慎重に押さえてください。沖縄県の島々は、北海道・東京・新潟・石川・島根・山口・長崎・鹿児島の8都道県71島が対象となる「特定有人国境離島地域」の指定対象外です(内閣府総合海洋政策推進事務局)。沖縄県は沖縄振興特別措置法の枠組みに置かれているため、創業で最大450万円・事業拡大で最大1,200万円(対象事業費上限はそれぞれ600万円・1,600万円、国1/2・地方1/4・事業者1/4の負担割合)の補助が受けられる特定有人国境離島地域社会維持推進交付金の対象にはなりません。
県内の島には沖縄離島活性化推進事業費補助金などの別制度がありますが、運用主体は石垣市・竹富町などが中心で、渡嘉敷村単独での創業補助金メニューは限定的です。
さらに、東京圏から沖縄県へ移住する人を対象にした令和8年度の沖縄県移住支援金事業の対象市町村は、石垣市・国頭村・東村・本部町・伊江村の5自治体のみです(沖縄県公式ホームページ)。渡嘉敷村は、移住支援金や国境離島補助金の後押しがない前提で、自走できる事業設計をしてから島に入る必要があります。
- 人口653人・面積15.31平方キロメートルの小規模離島
- 年間来島者10万人超で観光業に依存した経済構造
- 那覇から最短約40分の日帰り圏で本島とのアクセスは離島の中で最良
- 特定有人国境離島補助金・沖縄県移住支援金の対象外
- 島内市場のみに頼ったビジネスは規模に上限がある
渡嘉敷村で使える支援施策と知っておきたい現実

ここで頭に入れてほしいのは、渡嘉敷村には、本島の自治体のような豊富な創業補助金の選択肢はないということです。よく耳にする「特定創業支援等事業」(1ヶ月以上4回以上の支援を受けると登録免許税が半額になる制度)も、村単独での実施は確認しづらく、最新の運用状況は渡嘉敷村役場と渡嘉敷村商工会への直接確認が必要です。
島の起業相談窓口になるのは、渡嘉敷村商工会(沖縄県島尻郡渡嘉敷村字渡嘉敷346番地・電話098-987-2430)です。経営指導員が常駐し、村役場と連携して移住相談にも対応しています。沖縄県移住支援金の対象外であっても、沖縄県公式移住応援サイト「おきなわ島ぐらし」を通じた情報提供や、村役場の移住相談は機能しています。
日本政策金融公庫・沖縄公庫の活用
補助金が限定的な代わりに、創業時に使える融資は本島と同じ枠組みが使えます。日本政策金融公庫の「新規開業資金」、沖縄振興開発金融公庫の創業向け融資、信用保証協会の創業関連保証など、自己資金1割で借りられる枠は残されています。補助金の少ない島だからこそ、最初に投資を抑え、固定費を最低限まで削るところから事業を組み立てるのが現実的な進め方です。
行政窓口は「方向性が見えてから」訪ねる
ここは強調しておきたいのですが、村役場や商工会にいきなり「何で起業したらいいですか」と相談に行っても、担当者も答えようがありません。何を売るかの方向性が固まったあとに、移住相談・融資相談・支援制度の確認のために訪ねる順番が、結果的に一番話が早く進みます。
会社員のまま始めやすい事業の組み立て方

渡嘉敷島で起業しようと考えるとき、最初に陥りがちなのが「島内のお客さんを相手に商売する」発想です。人口653人の島で島内住民だけを顧客にすると、市場が一桁小さい上に既存の店と競合します。離島経済新聞などが取り上げてきた成功事例の多くは、島外から客や売上を運び込む設計をしています。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』にも書いたのですが、会社員のまま始める起業で大事なのは、「フロー収入(その都度の売上)」と「ストック収入(積み上がる売上)」の組み合わせを、最初から2本立てで設計することです。渡嘉敷島のような観光繁忙期と閑散期の差が大きい島では、特にこの考え方が効きます。
島の固有資源を使う事業
冬場のホエールウォッチング、世界レベルの透明度を誇るダイビング、ケラマジカやリュウキュウサンショウクイの観察、戦跡の語り部ガイドなど、島でしか提供できない資源があります。既存の9店前後あるダイビングショップ・民宿との連携は現実的で、会社員時代に潜水士やインストラクター資格を取って通い始める方は実際にいらっしゃいます。
島外マーケット向けの事業
リモートワーク継続で本業を維持しながら、副収入として島の素材を活かしたコンテンツ発信(YouTube・写真販売・観光案内)、Webデザイン・コピーライティング・コンサルティングなど、立地に縛られない事業を組むパターンです。渡嘉敷島の場合、那覇からのアクセスが最良なので、月2〜4回通うだけで島とのつながりを維持できるのが大きな利点です。
二地域居住・関係人口モデル
いきなり移住するのではなく、東京や那覇で会社員を続けながら、月の1週間を島で過ごす形を1〜2年続け、その間に島内に協力者と仕事の土台を作っていく組み立てです。渡嘉敷島の場合、那覇から日帰り圏という地理的優位を最大限に使えるので、二拠点居住が他の離島より組みやすい立地です。
- 島内住民だけを顧客にしない(市場規模に上限がある)
- 島の資源を使った事業と、立地に縛られない事業の二本立て
- 既存のダイビングショップ・民宿との連携を前提に設計する
- 那覇から最短約40分の利点を活かした通いベースの組み立て
- フロー収入とストック収入を最初から並走させる
通いながら準備した人がたどる現実的なルート

慶良間諸島国立公園が指定された2014年以降、渡嘉敷・座間味の両村は観光業従事者が労働人口の約90%を占める構造に集中しました(公明新聞リポート最前線2024年3月17日付)。観光に偏った経済は、繁忙期と閑散期の差が極端で、これに備えのない事業者が苦しむ構造があります。
自己流で移住して半年で撤退する型
一番多いのは、ダイビングが好きで通っていた方が会社員を辞めて移住し、貯金を取り崩しながら独立を試みるパターンです。最初の繁忙期は予約も入ってある程度回るのですが、10月以降の閑散期に売上が三分の一以下に落ち込み、半年〜1年で本島か本土に戻る方が一定数いらっしゃいます。
起業18で学び直して通い始める型
同じく「島が好き」から始まる方でも、いきなり移住せず、会社員のまま月1〜2回通いながら、勉強会で「自分の核になる商品(ストック)」と「現地で売る商品(フロー)」を別々に設計しなおして、関係人口として島と関わり続けた方は、結果的に島での事業が長く続いています。島に飛び込む前に「会社員のままで何を売るか」を組み立て直すと、移住後の不安がぐっと小さくなります。
既存事業者の事業承継型
近年、渡嘉敷・座間味の両村でも、ダイビングショップや民宿の事業承継のニーズが少しずつ出始めています。ゼロから店を構えるよりも、既存事業者の顧客リスト・施設・許認可を引き継ぐ形で島に入る選択肢は、移住前に何度も島を訪ね、人間関係を作っている人にしか見えてきません。
次のステップ:島に入る前に整える順番

渡嘉敷島で起業を考えるとき、最初の1歩は島の不動産を探すことでも、移住相談に行くことでもありません。まず会社員のままで、自分が何を売って食べていくのか、その骨格を整えるところからです。
順番としては、第1に起業18フォーラムの動画や勉強会で起業の全体像を学び、自分の経験や得意と島の資源が交わる場所を探します。第2に、月に1〜2回、那覇日帰り圏という利点を使って渡嘉敷島に通い、宿の方やダイビングショップの方と話を重ね、現地で求められていることを肌で知ります。
第3に、方向性が見えてきた段階で、渡嘉敷村役場や商工会、沖縄県の移住相談窓口、日本政策金融公庫などの実務的な制度を順番に確認していきます。
一気に移住する必要はありません。「お試し移住」「期間限定移住」「二拠点居住」も、れっきとした選択肢です。慶良間ブルーで知られるこの島は、慌てて飛び込まなくても、通い続ける限りいつでも迎えてくれます。会社員時代の信用と収入を活かして準備の時間を確保し、島と自分の生計が無理なく繋がる地点を見つけてから、ゆっくり拠点を移していけば十分です。

渡嘉敷島という選択は、人口100倍の観光客が来る豊かな立地と、補助金の薄い小規模離島という現実が同居しています。だからこそ、会社員のままで一度立ち止まり、自分の核になる事業を整えてから踏み出していく順番が、この島で長く続けるための土台になります。
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