記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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理学療法士(PT)として病院や施設で働きながら、「このキャリアを外でも活かせないか」と考える人が増えています。
理学療法士の有資格者は2024年時点で約21万人を突破しており、厚生労働省の試算では2026年にも供給過剰ゾーンに入ると見込まれています。
資格を取っても、病院・施設での求人が需要に追いつかなくなっていく現実が、起業への関心を高めているのです。
「でも、理学療法士は医師の指示がないと何もできないのでは」と感じている方も多いはずです。その壁の正体と、在職中に動ける準備の手順を、PT経験者の目線で書いています。
理学療法士の「当たり前」は、外では希少スキルになる

毎日やっていることが、外では「特技」に変わる
「なぜ膝が痛むのか」を解剖学・運動学のベースで説明できる。患者が継続できるように動機付けしながら関わる。姿勢を見ただけで、どこに負荷がかかっているかを読む。理学療法士として10年現場にいれば、これらは「当たり前のこと」になっています。
でも、一般の人にとっては違います。「なぜそこが痛むのか」「どう動けば改善するのか」を言語化できる専門性は、保険外の市場で明確な武器になります。これが理学療法士の「名もなき強み」です。
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、理学療法士の平均年収は約432万円で、10年以上の経験者でも大きな昇給が見込みにくい構造があります。この収入の上限感が、保険外でのキャリアを模索するきっかけになっているケースが多いです。
最初に知っておくべき法律の制約
起業を考え始めると、すぐに直面するのが理学療法士及び作業療法士法の壁です。同法では理学療法士は「医師の指示の下に理学療法を行うことを業とする」と定められており、独立して「理学療法」を提供するビジネスは原則認められていません。
ただし、「理学療法そのもの」を提供しない形なら起業できます。整体・自費リハビリサービス・パーソナルトレーニング・健康指導・セミナーといった形態で、理学療法士の知識を活かした起業は現実的に行われています。「理学療法を売らない起業」ではなく、「理学療法の知識を別の商品に変える起業」と考えると、選択肢が広がります。
在職中から動ける4つの準備ステップ

「誰の何を解決するか」を最初に言葉にする
起業準備で最初にやるべきことは、事業計画書でも資金計算でもありません。「自分は誰のどんな悩みを解決できるか」を言葉にすることです。
「痛みで困っている人を助けたい」では曖昧すぎます。「腰痛を繰り返すデスクワーカーの根本改善をサポートする」「転倒が怖くて外出を控えている高齢の親を持つ家族の不安を取り除く」といった解像度まで落とし込む。現場で一番手ごたえを感じた患者像が、そのままターゲットになることが多いです。
発信から始める。設備より先に信頼を作る
ターゲットの仮説が固まったら、発信を始めます。「なぜそこが痛むのか」「この動きで何が変わるのか」をSNSやブログで説明する投稿を週に2〜3本続けるだけで、6ヶ月後には「この人に相談したい」という声が出てきます。スタジオも設備も、この段階では必要ありません。
- 発信テーマは「外来でよく聞かれること」「患者が一番誤解していること」
- プラットフォームはInstagram・X・noteのいずれか1つに絞る
- 患者情報・職場情報は一切出さない(個人の専門的見解のみ)
- 週2〜3本が続けられる量。毎日投稿より継続の方が大切
小さく試して、最初の収入を作る
発信を続けていると「相談できますか?」という声が出てきます。週末にZoomでの個別相談を受け付けてみる、知人向けに60分のコンディショニング指導を試してみる。この段階では設備も場所も不要で、起業の最初の入口として十分です。
手ごたえが出てから、勤務条件を見直す
「この形なら続けられる」という感触を掴んでからが、勤務日数を減らすか転職するかを検討するタイミングです。26年間で60,000人以上の起業準備に関わってきた経験上、準備が整う前に退職した人ほど最初の数ヶ月で詰まりやすいという傾向は、理学療法士のケースでも共通して見られます。退職のタイミングは、収入の手ごたえが出てからで十分です。
経験分野別・起業アイデアの選び方

専門分野×ビジネス形態の組み合わせ
理学療法士が起業できる形態は、これまでの専門領域によって変わります。スポーツ障害に長く関わってきた人と、老年期・介護予防を専門にしてきた人では、狙うべき市場が違います。自分の経験の「深さ」がある分野から逆算するのが基本です。
- スポーツ・整形外科系:パーソナルコンディショニング、スポーツチームのフィジカルサポート、ケガ予防セミナー
- 慢性疼痛・姿勢改善系:自費リハビリサービス、姿勢改善講座、デスクワーカー向けオンラインプログラム
- 老年期・介護予防系:地域の転倒予防教室、自治体・地域包括支援センターへの研修提供
- 病院・施設向けBtoB:リハビリスタッフの教育研修、マネジメントコンサルティング
自費リハビリの市場と、参入前に知ること
自費リハビリ市場は2023年時点で年間500〜700億円規模と推計されており、今後は1,000億円規模に達する可能性があると指摘されています。保険でのリハビリ日数に制限がある中、「続けたい」という患者ニーズが保険外に溢れているのが背景です。
ただし、自費リハビリの開業でも「理学療法」という名称・表現は使えません。「身体機能改善指導」「コンディショニングサービス」など、医療行為と切り離した形で提供する必要があります。この点は、開業前に確認しておくことを勧めます。
差別化については、「スポーツ障害×高校生ランナー」「脳卒中後遺症×在宅復帰支援×40〜50代」のように、専門領域と対象者を具体的に組み合わせるだけで競合との違いが生まれます。最初から大きな差別化は不要で、小さな絞り込みの積み重ねが独自ポジションを作ります。
理学療法士に多い起業の失敗パターン

「資格があれば信頼される」という前提の危うさ
理学療法士として起業した人に多い失敗の第1位は、「国家資格を持っていれば相手は来てくれる」という前提で動いてしまうことです。病院の中では、資格と所属機関が信用の基盤になります。でも外に出た瞬間、その両方がなくなります。
一般の人にとって「理学療法士」は、まだ「何をしてくれる人か」の解像度が高くありません。コンテンツや発信を通じて、「この人は私の悩みを解決してくれる」という信頼を、自分で一から積み上げる必要があります。
保険点数の感覚で値段を決めてしまう
もう1つよく見られる失敗が、自費サービスの価格設定です。保険診療の点数感覚で価格を決めると、集客コストや場所代を含めた採算が成立しません。自費の価格設定は、提供する価値と市場相場から決める必要があります。
最初から低すぎる単価で始めると、後からの値上げが難しくなります。「安くすれば来てくれる」という考えは、自費サービスでは逆に価値を下げる場合があります。
- スタジオ契約を先に済ませて、そこから集客しようとする(順番の逆転)
- 「患者さんを支援する」スタンスのまま健康志向の一般客に向き合う(アプローチが違う)
- 発信なしで口コミだけを待ち続ける(最初の認知が広がらない)
「準備が整ってから」では、間に合わないかもしれない

市場が変わる前に、自分の「場所」を作る
理学療法士の供給過剰は、すでに動いています。病院・施設での席が狭くなる一方で、健康保険外の予防・改善市場は拡大を続けています。この市場で「あの人に頼もう」と思われるポジションを作るには、認知と信頼の積み上げに時間がかかります。動き始めるのが早いほど、有利です。
起業18フォーラムの会員さんの中にも、PTとして現場にいながら発信を始め、徐々に保険外の活動に比重を移していった方が複数います。共通しているのは、「まず発信から」という最初の一歩を早めに踏んだことです。
「もう少し準備が整ったら」という言葉は、多くの場合「今は動かない」と同じ意味に変わっていきます。今持っている経験と知識で誰かの悩みを解決できるかどうか。まずその問いに向き合うところから始められます。
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