記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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保育士として働き続けながら、「このままでいいのか」と感じている人は少なくありません。令和6年度賃金構造基本統計調査(厚生労働省)によると、保育士の平均月収は約27.7万円です。給与水準の改善は徐々に進んでいますが、処遇の限界を感じて現場を離れる保育士も依然として多い。
保育士登録者数は約179万人ですが、実際に施設で働いているのは約68万人です。残り110万人以上の「潜在保育士」が資格を持ちながら現場を離れているという現実は、この職業が抱える構造的な問題を示しています。
そのキャリアを活かしながら、自分でビジネスを動かす選択肢があります。子どもへの関わり方、保護者との信頼構築、発達への観察眼。現場で磨かれてきたこれらの力は、保育施設の外でも十分に通用します。この記事では、在職中から動ける保育士の起業準備を、具体的なステップで解説します。
保育士の現場経験が、そのままビジネスの核になる理由

「持っているのに気づいていない」強みから始める
保育士資格の取得者数は増えています。厚生労働省のデータによると、保育士の登録者数は約179万人ですが、実際に保育施設で従事しているのは約68万人にとどまります。資格の希少性だけでは差別化はできません。ビジネスで本当の武器になるのは、資格の名前ではなく、現場でしか培われない経験です。
0歳から就学前の子どもの発達を毎日観察し続けた眼。困っている保護者の話を聞き、方向性を伝えてきたコミュニケーション。集団の中で個人のニーズをとらえる感覚。これらは10年・20年かけて積み上げてきたものであり、短期間で習得できるものではありません。
起業支援の現場でよく話すことがあります。「保育士さんが当たり前にやっていること」は、保育の外の世界では希少価値が高い。「これは特別なことではない」と感じるほど、その経験は本物です。
「保育士である」に他の要素を掛け合わせる
自分の強みを1つに絞り込もうとするより、「複数の小さな個性を掛け合わせる」方が、起業では長く続きます。
「保育士経験がある」だけでは、登録者約179万人と同じ土俵に立つことになります。でも「保育士10年以上の経験」+「発達障害の子どもへの対応が得意」+「オンライン相談ができる」という組み合わせは、同じポジションを持つ人が激減します。大きな差別化を作る必要はありません。小さな個性を複数積み重ねるだけで、自分だけの立ち位置は十分にできます。
保育士の強みは資格にあるのではなく、現場でしか積めない「子どもと保護者に関わる技術」にある。
- 現場で身についた発達の観察眼は、支援や相談事業で直接の信頼材料になる
- 保護者との関係構築の技術は、コーチングや子育て支援サービスに転用できる
- 集団保育のマネジメント経験は、研修・講師業の土台になる
在職中に動かす起業準備の4ステップ

自分のキャリアを棚卸しする
最初にやることは記事作成でも商品開発でもなく、「自分が何者か」を言語化する作業です。担当してきた年齢層、得意にしてきた領域(発達支援・音楽・食育・運動・保護者対応など)、施設の種別(認可保育所・小規模保育・企業内保育・病院内保育など)、自治体や地域との連携経験。これらをA41枚に書き出すと、「自分のどの経験がビジネスになるか」が見えてきます。
起業18フォーラムの相談者の中にも、棚卸しをやってみて初めて「こんな経験が強みになるとは思わなかった」と話す保育士がいます。現場で当たり前にやってきたことほど、外から見ると希少な価値があります。
最初の顧客像を1人に絞る
「子育て中の保護者全員に届けたい」という出発点は、誰にも届かない可能性があります。「発達が気になる3歳の子どもを持ち、園への相談を迷っている30代の母親」のように、1人に絞り込む方が、伝えるメッセージも集客の場所も明確になります。
ビジネスアイデアを検討するときに使える問いがあります。「①一人で始められるか? ②一人で続けられるか? ③大きなお金がかかりすぎないか?」この3つを満たすアイデアから先に動き始めると、失敗コストを最小化できます。
現場の知識を小さく発信する
SNSやブログで「保育士の視点」を発信することが、最初の顧客との接点になります。発達のワンポイント、保護者との関わり方のヒント、遊びの選び方、絵本の読み聞かせの工夫。保育の現場では当たり前の知識が、子育て中の保護者には貴重な情報です。
フォロワー数は気にしないでいい段階です。「この人の言葉は信頼できる」という印象を継続的に積み上げることが目的です。
在職中に「最初の1件」を動かす
知人の保護者から無料相談を受けてみる。子育てイベントのサポートに入ってみる。地域の子育て支援センターで情報交換をしてみる。在職中のうちに「小さな現実」を1件でも経験しておくと、独立後のスタートが根本的に変わります。
お金が動いてからでなくていい。自分の経験が誰かの役に立つ場面を、まず現実として体験することが先です。
- 棚卸し:A41枚、得意な領域・担当年齢層・連携経験を書き出す
- 顧客像:「保護者全員」ではなく、具体的な1人を描く
- 発信:フォロワー数より継続性。週1回でも続けることが資産になる
- 実績:在職中に1件動かす。規模は問わない
保育士の経験を活かした起業アイデア

パターン①:子育て相談・発達サポート(オンライン可)
最も初期費用が低く、在職中から動かしやすいのが、保護者向けの子育て相談や発達サポートです。「園には相談しにくい」「専門機関は敷居が高い」という保護者のニーズを、保育士の現場経験が直接埋めます。オンライン対応が可能なため、場所を選ばず始められます。
発達障害への対応・食育・感覚統合など、自分の専門性が明確なほど「この先生に頼みたい」という信頼が集まりやすくなります。現場経験が長い保育士ほど、実績がそのまま信頼の証明になります。
パターン②:放課後等デイサービス・小規模保育所の開設
「自分の手で保育環境を作りたい」という保育士に向いている選択肢が、放課後等デイサービスや小規模保育所の立ち上げです。放課後等デイサービスは、障害のある6歳から18歳の子どもに対して放課後・学校休業日に支援を提供する福祉事業で、報酬体系が国の障害福祉サービス等報酬(公定価格)に基づいているため、民間サービスと比べて収益の見通しを立てやすい事業形態です。開業費用の目安は物件・内装・備品込みで500万〜800万円程度、運転資金(補助金入金まで2〜3か月分の人件費・諸経費)を加えると1,000万〜1,500万円程度が実態に近い水準です。
施設型の場合、「児童発達支援管理責任者(児発管)」資格の取得が必要になります。在職中から研修要件を確認しておくと、独立後の準備期間を短縮できます。
パターン③:保育施設向け研修・コンサルタント
「保育士の離職率を下げたい」「職員の保護者対応スキルを改善したい」という保育施設や自治体への研修講師・コンサルティングというルートがあります。現場経験が長いほど、「机上の言葉」ではなく「現場の言語」で話せることが強みになります。
B to Bのビジネスモデルは単価が高く、継続案件になりやすい形態です。自治体の子育て支援事業との連携、企業内保育施設へのサポートなど、現場経験があるからこそ入れる仕事があります。
保育士特有の失敗パターン

「子どもが好き」だけでは値付けができない
保育士が起業で最初に直面するのが、料金設定の壁です。保育の現場では月給制が基本のため、「自分のサービスに価格をつける」という経験がありません。「子育てのことで報酬をもらうのは申し訳ない」という感覚から、料金を低く設定しすぎてしまうことが多い。
最初の料金設定は後から上げることが難しい。「少し申し訳ない」と感じる価格ではなく、自分の経験と知識に見合った価格を最初から設定することが、長く続けるための土台になります。
値下げから入ると、稼働時間ばかりが増えて利益が残らない構造になります。在職中に「同じ分野で起業している人の価格帯」を調べておく時間を、意識して作ることをおすすめします。
「施設を作るのが保育士の独立」という思い込み
「独立=保育施設を開く」というイメージを持っている保育士は少なくありません。でも保育士の起業は施設だけではありません。オンライン相談、発達支援、研修講師、子育てメディア運営、おもちゃ・教材の企画制作など、保育の知識と経験が活きる場は広い。「施設を作らなければ本物の独立ではない」という思い込みが、スタートを重くしています。
「保育士コミュニティ」の外に出ない
東京都が2022年に実施した調査(保育士約52,000人対象)では、退職を考えた理由として「低賃金」を挙げた割合が61.6%に達しました。給与水準への不満を抱えながら現場に留まり続けることには限界があります。でも、その不満を抱えた保育士同士で話し合うだけでは、状況は動きません。
保育士の横のつながりは大切ですが、「起業・ビジネスをしている人」「子育て支援分野で事業を動かしている人」との交流も、起業準備では同じくらい重要です。保育士コミュニティの外に出ていくことが、新しい視野を開きます。
保育士としての経験を、今日から設計し直す

「現場に戻る」以外の選択肢を持つことから始まる
現場を離れた保育士が「もう一度働こう」と思うとき、選択肢のほとんどが「別の保育施設に転職する」です。でも、保育士として10年・20年積み上げてきた経験は、施設勤務以外の形でも活かせます。
仕事を辞めてから準備を始めると、収入ゼロのプレッシャーの中で動くことになります。在職中に小さな動きを1件でも作っておいてから次のステップに進む方が、リスクを大きく下げられます。
26年間の起業支援の現場で繰り返し目にしてきたことがあります。保育士として長く積み上げてきた人ほど、「自分の経験がビジネスになるとは思わなかった」と話します。でも棚卸しをすると、多くの場合、最初の1件を動かす材料はすでに手元にあります。
準備の進め方は、今の状況によって変わる
「保育士として起業したい」といっても、在職中か、すでに離職済みか、子育て中か、資格だけ持っている潜在保育士か。それぞれで次に何をすべきかは変わります。どの段階にいても、あなたの状況に合った準備の進め方を一緒に考えていきましょう。
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