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● 質問
4月から社会人になります。一人暮らしも始めます。じつは将来は起業したいと思っていて、社会人になっても1年くらいで会社を辞めるつもりです。
経験もお金も人脈もまだ何もありませんが、早く自分の力で動き出したい気持ちが強いです。こんな自分は、まず何から準備しておけばいいのでしょうか?
● 回答
社会人になる前から、もう「その先」を見ている。その気持ちは大切にしてほしいと思います。まずお伝えしたいのは、起業したいなら「1年で辞める」と先に期限を決めてしまうことだけは、いったん横に置いてほしい、ということです。
辞める時期を最初に決めるのではなく、会社の外で少しでもお金をもらえる手応えが出てから辞めどきを決めるのが、新社会人の起業でいちばん遠回りしない順番です。なぜそう言えるのか、順を追ってお話しします。
「1年で辞める」と決めることが、いちばんの遠回りになりやすい
起業したい人ほど、つい「いつまでに辞める」とゴールの日付を先に置きたくなります。気持ちはよく分かります。期限があったほうが、覚悟が決まる気がするからです。
けれど、まだ何も始めていない段階で辞める日だけを決めると、その日が近づくほど「間に合わせなきゃ」と焦りが先に立ちます。準備が整ったから辞めるのではなく、決めた日が来たから辞める、という順番が逆転した動き方になってしまうのです。収入の当てがないまま勢いで飛び出して、出戻りもできずに苦しむ若い方を、私はこれまで何人も見てきました。
日本政策金融公庫総合研究所の「2025年度新規開業実態調査」(2025年12月公表)を見ると、実際に開業した人のうち29歳以下は7.0%にとどまり、30歳代が28.0%、40歳代が36.9%で最多です。平均年齢も43.9歳と、調査開始以来最も高くなりました。早く始めたい人が多いはずなのに、開業の中心はある程度キャリアを積んだ世代です。
これは「20代で起業するな」という意味ではありません。早く動きたい人ほど、いきなり辞めるより、勤めながら土台を作ってから出ている、という現実の表れだと受け取ってください。
新社会人のうちに、辞めずに積み上がる3つのもの
「1年で辞める」を急ぐと、じつは社会人になって初めて手に入るものを、受け取る前に手放すことになります。会社に在籍している間だけ、ほぼ無料で積み上がるものが3つあります。
- 給与という安全網:
毎月決まったお金が入るからこそ、小さな失敗を怖がらずに試せます。元手がゼロから始まる人にはない強みです - 社会人としての信用:
名刺・所属・毎日働いた実績は、銀行口座やクレジット、取引相手からの信頼の土台になります - 仕事を通じた経験と人:
お客様や取引先のリアルな困りごとに触れた経験そのものが、後で商品の種になります
この3つは、辞めた瞬間にゼロから集め直すことになります。逆に、勤めているうちなら、毎日の仕事の延長線でひとりでに貯まっていきます。辞める準備をするのではなく、今は「会社にいるからこそ手に入るもの」をしっかり受け取ることに意識を向けてみてください。
焦りを「続く計画」に変える、継続可能ゾーンという考え方
とはいえ、勢いを止めたくない気持ちもあると思います。そこで知っておいてほしいのが、拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』で紹介している「継続可能ゾーン」という考え方です。
やる気が満タンのときに立てた目標は、たいてい背伸びしすぎていて続きません。そうではなく、「これなら無理なく続けられる」というラインまで目標をあえて下げて、その範囲で小さく積み上げる。起業は短距離走ではなく長く続けた人が残る世界なので、続く速さで進むことそのものが力になる、という整理です。新社会人で時間も体力もある今は、この「続けられる範囲」を見つけるのに、むしろ向いています。
会社の外で稼ぐ準備を勤めながら進める人は、年々増えています。総務省の「令和4年就業構造基本調査」(2023年7月公表)では、今の仕事を続けながら別の仕事もしたいと考える追加就業希望者が、働く人の7.8%にのぼり、5年前より1.3ポイント増えました。辞めてから始めるのではなく、勤めながら小さく試す道は、もう特別なものではないのです。
桜庭さんが、辞める日付を手放してから動き出した話
起業18フォーラムの会員に、桜庭さん(仮名・20代・人材サービス会社勤務)という方がいました。新卒で入って早々に「2年以内に辞めて独立する」と心に決め、退職日から逆算して焦るばかりで、何も形にならない時期がしばらく続いたそうです。
変わるきっかけは、思ったように昇給しなかった初めての評価面談でした。「会社に自分の時間を預けているのに、見返りは会社の都合で決まる」と痛感し、いったん辞める日付のほうを手放してみたのです。代わりに、職場で覚えた求人原稿の書き方を、知り合いの個人店オーナー1人に向けて手伝ってみることから始めました。
最初は無料のつもりが、「これは助かるからお金を払わせて」と言われたのが、桜庭さんにとって最初の手応えでした。辞める日を決めるのをやめて、勤めながら続けられる範囲で一人の相手に当て続けたことが、桜庭さんの足場になりました。
その一人が別の店主を紹介してくれ、相手が1人から3人に増えるころには、空回りしていた頃の「焦りで眠れない」感覚が消え、辞めどきは「収入が見えてから考えればいい」と落ち着いて思えるようになったといいます。
もし桜庭さんが当初の「2年で辞める」を守って勢いで退職していたら、この小さな一件は生まれなかったはずです。日付を手放したことが、かえって前に進む力になりました。
では、新社会人の起業準備は何から始めればいいか
難しく考える必要はなく、やることはきれいに3段階に分かれます。
順番はとてもシンプルです。まず、入った会社の仕事をきちんと覚えること。これは遠回りではなく、お客様の困りごとや商売の仕組みに触れられる、お金をもらいながらの最高の練習だからです。
そのうえで、就業規則だけは早めに目を通しておきましょう。会社によっては、外で報酬を得る活動の届け出が必要だったり、活動を制限する条項があったりします。ここを確認しておけば、「今どこまでやっていいか」の線引きがはっきりします。
あとは、覚えたことの中から「人に頼まれそうな小さなこと」を1つ選び、知り合い1人に有料で引き受けてみる。いきなり開業届を出すより、まず一人に有料で1件、お金をもらって成立するかを試すところから始めてください。
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一人暮らしを始めると、「これは必要なはず」と思って買ったものが、案外使わなかった、ということが起こります。起業も同じで、頭で「こうに違いない」と決めつけたことほど、やってみると違っていたりします。だからこそ、最初から大きな期限や設備で固めず、小さく試して確かめながら進むのが、遠回りに見えていちばんの近道になります。
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