起業準備中に転職の誘いが来たら乗り換えるべき? 本業と準備を両立する時間の決め方

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

起業準備を続けている最中に、以前一緒に仕事をした人からの紹介で、今より給与が上がりそうな転職エージェントの面談に誘われました。

ここで転職に気持ちを切り替えるべきか、このまま起業準備を優先するべきか、正直決めきれずにいます。どちらを優先して考えればいいのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

転職エージェントから声をかけられた途端に、起業準備のノートを開く手が重くなる人は少なくありません。給与が上がるオファーは起業準備をやめる合図ではなく、今の時間の使い方を一度見直す合図として受け止めるのが、現実的な選び方です。

「うちの条件でよければ、一度お話だけ聞いてもらえませんか」という誘い文句の裏には、目の前の条件の良さと、自分で育ててきた計画の重みを、同じ天秤に乗せようとしてしまう心理が働いています。

「転職か起業か」という二択の思い込み

好条件のオファーが来ると、多くの人が「転職するなら起業準備はあきらめるしかない」と思い込みます。ですが実際には、転職と起業準備は同時に進められる場面のほうが多いというのが、これまで見てきた傾向です。

そのことは統計にも表れています。日本政策金融公庫総合研究所の2024年度「起業と起業意識に関する調査」では、事業に充てる時間が週35時間未満の「パートタイム起業家」のうち、39.2%が調査時点でも勤務しながら事業を行っていました。雇用形態を正社員に限った数字ではありませんが、勤務を続けながら事業を育てている人はめずらしくありません。

つまり、転職するかどうかと、起業準備を続けるかどうかは、本来は別の軸で決めてよい問題なのです。

オファーの条件を数字で確認する

とはいえ、転職の話にはうれしさや焦りが伴うため、条件を数字で確認する前に気持ちだけで決めてしまいがちです。まずは書面かメールで、給与の増加額・雇用形態・試用期間の有無を確認してください。

好条件に見えるオファーでも、実際に増える金額は面談を重ねるまで確定しないことが少なくありません。そのことは統計にも表れていて、厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、転職入職者のうち前職より賃金が「増加」した割合は40.5%、「減少」した割合は29.4%でした。

数字が出そろうまでは、口頭の印象だけで起業準備を止める判断はもったいないといえます。焦って結論を出さず、条件が固まってから起業準備との時間配分を考えても遅くはありません。

転職エージェントには「検討の時間が2週間ほしい」と正直に伝えてしまって構いません。その間に、起業準備の現在地と照らし合わせる時間を確保できます。

4つの商品構成を時間の置き場所に変換する

拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、商品を4つの役割に分けて設計する考え方を紹介しています。この4つの構成は、そのまま時間の配分にも応用できます。

  • フロントエンド(お試し):
    新しい仕事に移った直後の2、3ヶ月を情報収集と検証に絞る期間
  • バックエンド(本業の軸):
    新しい仕事が落ち着いた後に本業の主軸として使う平日の勤務時間
  • サイドメニュー(起業準備の実作業):
    発信や商品づくりなど起業準備に固定する朝晩30分
  • ストック型(継続の種):
    発信や情報交換を通じて細く長く維持する関係

大事なのは、4つを同時に全力でやろうとしないことです。今どの構成に力を割く時期かを決めておくだけで、転職直後の混乱はかなり減ります。

3つの選び方を比べる

実際に迷ったときは、次の3つの選び方を並べて考えると整理しやすくなります。

  • オファーを受けて起業準備をやめる:
    収入が安定する一方で準備が一時停止する選択
  • オファーを断って起業準備だけ続ける:
    準備のペースを保つ一方で給与上昇の機会を見送る選択
  • オファーを受けて時間配分を見直し、両方を並走させる:
    本業に慣れた後に朝晩30分へ戻す並走案

迷いが強いときほど、受けるか断るかの二択で考えがちですが、両方を並走させる選び方ができる場面のほうが実際には多いのです。

迷ったときにまず試してほしいのは、オファーの条件を書面でもらい、起業準備の今の数字(実績や収入)と1回だけ比べてみることです。比べる材料がそろうだけで、決めきれなかった選択に輪郭が出てきます。

矢部さんが選んだ時間の配分

会員の矢部さん(仮名・50代前半・会社員)は、起業準備を始めて1年ほど、社内外の知人に自分の得意分野を積極的に伝える機会を作っていました。ところが商品の形が定まらず、何も外に出せていない状態が続いていました。

そんな折、以前の取引先の担当者からの紹介で、給与条件のいい転職エージェントの面談を勧められました。矢部さんは一度は「今の準備を投げ出すことになるのでは」と迷いましたが、起業18フォーラムの勉強会で他の会員が本業と起業準備を役割分担しながら進めている話を聞き、これまで書きためてきた起業準備のノートを読み返すうちに、自分なりに整理がついたといいます。

転職は受け入れつつ、最初の2ヶ月は新しい仕事に集中し、起業準備は週末の見直しだけに絞りました。3ヶ月目からは朝晩30分を固定し、以前から温めていた企画書づくりの代行を、知人経由で月に数件引き受けるところから再開しました。

半年が過ぎたころには、起業準備からの収入が本業の月収の1割程度に育ち、1年目の終わりには3割近くまで伸びる見込みが立ったといいます。

転職と起業準備、どちらか一方をあきらめる必要はなかったというのが、矢部さん自身の実感です。転職をきっかけに、会社の外で稼ぐ道を考え直す人は、これまでの相談でも珍しくありません。

転職と起業、どちらが自分に向くか試してから決められますか?
● 質問 今の会社の先行きに不安があって転職を考えているのですが、何社か面接を受けるうちに、そもそも会社勤めを

転職エージェントからの連絡というきっかけを、無駄にする必要はありません。ここまで起業準備を続けてきたあなたなら、2つの道を同時に進める設計も、きっと自分の手で組み立てられるはずです。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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