記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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独立2年目の7月、郵便受けに予定納税の通知と国民健康保険料の納付書が並んで届きます。独立1年目の所得が480万円だった方なら、2年目に納める住民税と国民健康保険料と所得税の予定納税は合わせて117万円を超えます。住民税と国民健康保険料は前年の所得をもとに翌年度へ課税され、予定納税は前年の所得税額の3分の1ずつを7月と11月に前払いする仕組みです。
つまり売上が伸びた年ほど、その分の請求は翌年にそろって届きます。金額そのものよりも、来る時期を知らずに迎えるほうが資金繰りには痛手です。
2年目が重くなる理由は税と保険料の基準年のずれ

会社に勤めていたころは、所得税も住民税も給与から引かれていました。健康保険料と厚生年金保険料も同じです。口座に入った金額が、そのまま使えるお金でした。
独立すると、この引き算がなくなります。入金はいったん全額が自分の口座に入り、あとから税務署と市区町村が請求してきます。独立2年目の資金繰りが崩れる原因は、稼ぎが落ちたことではなく、1年目の所得に対する請求が2年目にまとまって届く時間差にあります。
この時間差は制度上そう決まっているだけで、誰かの手落ちではありません。一度整理してしまえば、あとは毎年同じ形で回ります。
税と保険料はそれぞれ違う年の所得で決まる

まず、独立後に自分で納めるお金を並べます。総務省の説明では、個人住民税はその年の1月1日に住所がある市区町村で、前年中の所得をもとに翌年度に課税されます。
国民健康保険料も考え方は同じです。前年中の総所得金額等から基礎控除43万円を引いた金額に料率を掛け、そこへ加入者ごとの均等割を足します。40歳から64歳の方には介護分も加わります。
所得税の予定納税は、国税庁の定めで予定納税基準額が15万円以上の人が対象になり、その3分の1ずつを第1期(7月1日から7月31日)と第2期(11月1日から11月30日)に納めます。
| 納めるもの | 計算のもとになる年 | 2年目に届く時期 |
|---|---|---|
| 所得税(確定申告分) | 1年目の所得 | 2年目の3月 |
| 所得税(予定納税) | 1年目の所得税額 | 2年目の7月と11月 |
| 住民税 | 1年目の所得 | 2年目の6月から4回 |
| 国民健康保険料 | 1年目の所得 | 2年目の6月から10回 |
| 国民年金保険料 | 所得と関係のない定額 | 毎月 |
右の2列を見比べると、2年目の負担が「2年目の稼ぎ」ではなく「1年目の稼ぎ」で決まっていると分かります。1年目が良かった人ほど、2年目の請求は重くなります。
独立2年目に納付が集中する月

次に、その請求が実際にどの月へ落ちてくるかを並べます。国民健康保険料は多くの自治体で6月から翌年3月までの10回払いです。住民税の普通徴収は6月・8月・10月・翌年1月の4回が基本になります。
| 月 | その月に出ていくもの |
|---|---|
| 3月 | 1年目分の所得税を確定申告で納付 |
| 6月 | 住民税 第1期/国民健康保険料 第1回 |
| 7月 | 予定納税 第1期/国民健康保険料 第2回 |
| 8月 | 住民税 第2期/国民健康保険料 第3回 |
| 10月 | 住民税 第3期/国民健康保険料 第5回 |
| 11月 | 予定納税 第2期/国民健康保険料 第6回 |
| 翌年1月 | 住民税 第4期/国民健康保険料 第8回 |
国民年金保険料はこれとは別に毎月かかります。日本年金機構によると、令和8年度の国民年金保険料は月額17,920円で、前年度から410円上がりました。
山になるのは3月・6月・7月・8月・11月です。とくに7月は、予定納税の第1期と国民健康保険料が同じ月に並びます。
1年目の所得480万円で試算した2年目の負担

ここからは具体的な数字です。東京23区に住む単身の方で、独立1年目の事業所得が480万円、年齢は50代とします。介護保険の第2号被保険者にあたるため、国民健康保険料には介護分も乗ります。
国民健康保険料
賦課のもとになる金額は、480万円から基礎控除43万円を引いた437万円です。令和8年度の特別区の基準保険料率で計算すると、医療分が37万5,787円、後期高齢者支援金分が13万9,960円、介護分が12万3,991円となります。
ここへ令和8年度から加わった子ども・子育て支援金分1万3,672円が乗り、合計で年65万3,410円です。10回に分けると1回あたり65,341円になります。区によっては独自の料率を設けているため、実額はお住まいの区の通知でお確かめください。
住民税
所得控除を引いたあとの課税所得金額が320万円だったとします。所得割は都民税4%と特別区民税6%の合わせて10%なので32万円になります。ここに均等割の都民税1,000円と特別区民税3,000円、それに森林環境税1,000円を足して年32万5,000円です。4回に分けると1回あたり81,250円になります。調整控除などの細かい差し引きは省いた概算です。
所得税の予定納税
1年目の確定申告で確定した所得税額が30万円だったとすると、予定納税基準額も30万円です。15万円以上なので予定納税の対象になり、その3分の1にあたる10万円を7月に、もう10万円を11月に納めます。これは2年目分の所得税の前払いなので、翌年3月の確定申告で最終的な税額と精算されます。
- 国民健康保険料:
年65万3,410円(6月から翌年3月の10回払い) - 住民税:
年32万5,000円(6月・8月・10月・翌年1月の4回払い) - 所得税の予定納税:
7月と11月に10万円ずつで年20万円 - 国民年金保険料:
月17,920円で年21万5,040円 - 毎年繰り返す4つの合計:
年139万3,450円(2年目3月の確定申告分は別)
この4つを月あたりに直せば11万6,000円ほどですが、実際は均等に出ていきません。7月と11月は18万円台が一度に動きます。住民税と重なる6月・8月・10月・翌年1月は16万円台です。さらに2年目の3月は、1年目の所得税30万円を確定申告で納めるため、その月だけで38万円台になります。
経費で所得は下げられても時差までは消えない

「経費をしっかり入れれば所得が下がるから大丈夫では」と聞かれることがあります。半分は正しい話です。経費を計上して所得が下がれば、住民税も国民健康保険料も下がります。
ただし効いてくるのは翌年です。2年目に届く納付書は、すでに1年目の所得で確定しています。2年目に使った経費は3年目の住民税と国民健康保険料に効くと覚えておくと、目の前の納付書に振り回されずに済みます。
例外は所得税の予定納税だけです。その年の所得が前年より大きく減る見込みなら、税務署に減額申請ができます。
国税庁の案内では、第1期分と第2期分の減額申請はその年の7月1日から7月15日まで、第2期分だけの減額申請は11月1日から11月15日までに提出します。提出期限が土日祝日にあたる場合は翌平日が期限になります。令和8年は11月15日が日曜日のため、第2期分の期限は11月16日(月)です。
2年目に売上が落ちそうだと見えている方は、この期限を手帳に書いておいてください。申請が通れば、納める額そのものが減ります。
通帳の推移を並べて動き出した芦田さんの2年目

会員さんの芦田さん(仮名)は、機械商社で20年ほど法人営業をしていた50代前半の方です。取引先から声をかけられて独立し、1年目は前職のつながりで受注が続きました。売上は想像より伸びて、事業用口座の残高も月ごとに増えていきました。
流れが変わったのは、2年目の春に家計簿アプリと事業用口座の推移を並べて眺めたときでした。入金額は落ちていないのに、手元に残る現金だけが3ヶ月続けて減っていました。原因が分からないまま、納付書だけが届き続けていました。
芦田さんは起業18フォーラムの勉強会で資金繰りを扱った回に参加し、ほかの会員さんが作っていた納付カレンダーを見せてもらいました。自分の表には国民健康保険料の10回払いと予定納税の2回が入っていないと分かりました。そこから、入金のたびに一定割合を納税用の口座へ先に移す形に変えました。
2年目の後半には、売上に占める継続契約の割合が2割から6割へ変わりました。単発の入金に頼らない形になったため、納付月が来ても生活費から取り崩さずに済みました。芦田さんが悔やんでいるのは、納付カレンダーを1年目のうちに作っておかなかった一点だけです。
独立前に足しておく金額の決め方

ここからは、まだ会社に勤めているうちにできることです。難しい試算は要りません。最初に、1年目の見込み所得を仮に決めます。今の給与年収の何割で立ち上がるか、という程度の数字で構いません。
拙著『起業神100則』では、お金を血液、現金を生命線にたとえて紹介しています。利益が出ていても現金が回らなければ止まる、という意味です。独立2年目の詰まりは、まさにこの現金の側で起こります。仮に決めた所得をもとに、次の3つを概算してみてください。
- 住民税を概算する:
見込み所得から控除を引いた額のおよそ10%に5,000円を足した年額 - 国民健康保険料を概算する:
住んでいる市区町村の料率表に見込み所得を当てはめた年額 - 所得税を概算する:
見込み所得から控除を引いた額に税率を当てた年額。うち3分の2は、2年目の7月と11月に予定納税として前倒しで出ていく分
この3つを足した金額が、独立から2年目の夏までに手元へ残しておきたい現金の下限です。国民年金保険料の年21万5,040円も別に積んでおいてください。ここへさらに生活費の6ヶ月分を上乗せすれば、納付月が来ても事業の判断が鈍りません。
まずは住民税と国民健康保険料と所得税の概算を一度合計して、必要な現金がどの桁になるかを確かめてください。正確な数字は開業してから合わせれば間に合います。
退職の前後にやる健康保険と国民年金の切り替えは、こちらに手順をまとめています。

よくある質問

Q.住民税は独立した年から自分で払うのですか?
退職した時期によって変わります。給与から天引きされていた特別徴収は、退職後に普通徴収へ切り替わり、市区町村から納税通知書が届きます。独立した年の6月以降に納めるのは、勤めていた年の所得に対する住民税です。
Q.予定納税の通知が来なければ払わなくていいのですか?
予定納税基準額が15万円未満なら対象外なので、通知は届きません。その年は前払いが発生しません。ただし翌年3月の確定申告で一年分をまとめて納めることになるため、前払いのない年こそ手元に残しておく必要があります。
Q.2年目に売上が落ちたら納付額もその年のうちに下がりますか?
住民税と国民健康保険料は下がりません。どちらも前年の所得で決まるため、影響が出るのは3年目です。所得税の予定納税だけは減額申請という道があります。
Q.納税用の口座は分けたほうがいいですか?
分けたほうが判断は楽になります。入金があった時点で一定割合を移してしまえば、事業用口座の残高がそのまま使えるお金になるからです。割合の目安は、前年の納付総額を前年の売上で割った数字です。
順番が分かれば2年目は読める

独立2年目に出ていくお金は、今日いっぺんに用意しなくて構いません。いつ、いくら来るかを先に知っておけば、7月に納付書を開いても手が止まりません。給与という定期的な入金があるうちは、この準備を進めやすい時期です。
2年目は楽になる年ではなく、1年目の結果が届く年です。届く順番が分かっていれば、それは驚きではなく予定に変わります。
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