記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
今の会社では、クレームやトラブルの矢面には相談室の先輩や上司が立ってくれていて、私自身が一人で最後まで対応した経験はほとんどありません。
将来はハンドメイドのアクセサリーをネットで販売する形で起業したいと考えているのですが、理不尽な要求をされたときに自分ひとりで冷静に対応できる自信がなくて、それだけが引っかかっています。
クレーム対応の経験がないまま起業しても、本当に大丈夫でしょうか?

● 回答
クレーム対応の経験がなくても、起業の準備を進めることに問題はありません。実務で起きるトラブルの多くは、対応してきた経験の量よりも、あらかじめ「型」を決めているかどうかで結果が変わります。全国の消費生活センター等がPIO-NETに登録した2024年度の消費生活相談は約91万件で(2025年8月6日発表分)、トラブルそのものは一部の特別な人だけに起きる出来事ではありません。
会社員時代と何が違うのかを整理する
会社に勤めているあいだ、お客様からのクレームは一人で完結しません。相談室の先輩が一次対応を引き取り、返金や交換の判断は上司や規定が決め、最終的な謝罪の言葉も会社の名前で行われます。つまり、対応・判断・お金という3つの役割が別々の人に分かれているのです。
起業して独立すると、この3つの役割がすべて自分ひとりに重なります。あなたが感じている不安の正体は、クレーム対応そのものへの苦手意識というより、この「役割が一人に集中する」という構造の変化に対する戸惑いに近いのではないでしょうか。
クレームの不安を3つに分けてみる
漠然とした不安は、分解すると意外に扱いやすくなります。起業後に届くクレームやトラブルは、おおむね次の3つに分かれます。
- 誤解・説明不足型:
商品説明や納期案内が足りず、お客様の想像と実物がずれて起きるすれ違い - 正当な指摘型:
配送中の破損や仕上がりの粗さなど、事実として直すべき点があるもの - 理不尽な要求型:
使用後の返品や過度な値引きなど、事実確認だけでは収まらない要求
この3つのうち、誤解・説明不足型と正当な指摘型は、丁寧な説明と改善でほとんど収まります。身構える必要が本当にあるのは、3つ目の理不尽な要求型だけなのです。
対応できるものとできないものを仕分ける
誤解や指摘への対応は、接客経験の有無というより、商品説明を丁寧に書く、写真を増やす、納期の目安を先に伝えるといった、起業準備の段階から積み上げられる作業です。ここは経験がなくても十分に備えられます。
一方で理不尽な要求型は、経験を積んだ人でも身構えるものです。ベテランの店主が落ち着いて対応できているのは、場数を踏んだからというより、どこまでは応じてどこからは応じないかという線引きを先に決めているからにすぎません。
起業18フォーラムの勉強会で「対応の型」を学ぶ
起業18フォーラムの会員である津村さん(40代前半)も、同じ不安を抱えていました。メーカーの総務部で10年ほど事務を担当したあと、社内異動でお客様相談室に配属され、初めて自分でお客様と直接やり取りする立場になったのです。
相談室で日々の電話を受けるようになって数ヶ月、津村さんはある違和感に気づきました。動揺していたのは新人の頃だけで、先輩たちは決まって同じ言葉から対応を始めていたのです。「型」があるから落ち着いて話せる、という単純な事実でした。
この気づきを、津村さんは起業18フォーラムの勉強会に持ち込みました。ハンドメイド作家として活動する会員さんの発表を聞き、初期対応の一言、確認する順番、対応を打ち切る基準の3つを先に決めておくだけで、当日の判断がぐっと軽くなるという話に納得したそうです。
2025年3月に出た拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、新規のお客様が2割、リピートのお客様が8割になるくらいのつもりで、リピート商品を育てていくとよいと紹介しています。信頼関係がまだない新規の2割にこそトラブルが集中しやすいと考えれば、型を用意しておく範囲は最初から限定的だとわかります。
- 初期対応の一言:
「ご不便をおかけしました」など、事実確認の前に必ず言う言葉を決めておく - 確認する順番:
注文日、商品名、症状の順に聞き取り、記憶ではなく記録に残す - 対応を打ち切る基準:
法令、表示済みの返品特約、契約不適合責任、プラットフォーム規約を優先した返金・交換範囲と対応終了基準
津村さんは勉強会のあと、この3項目をメモにまとめ、ハンドメイド販売用の定型文として整理しました。実際に開業してから届いた問い合わせは、ほとんどがメモの範囲内で落ち着いたそうです。
カスタマーハラスメント対策の義務化からもわかること
2025年6月11日に公布された改正労働施策総合推進法により、カスタマーハラスメント対策は2026年10月1日から労働者を1人でも雇うすべての事業主に義務づけられます。社会通念上許容される範囲を超えた要求への対応方針を、あらかじめ整えておくことが前提になっているのです。
個人事業主として一人で働く場合、この規定がそのまま適用されるとは限りません。それでも、理不尽な要求に一方的に耐え続けるのではなく、対応の線引きを先に持っておくという考え方そのものは、国の制度からも後押しされる方向に変わってきています。
- クレーム対応の不安は「誤解」「正当な指摘」「理不尽な要求」の3分類
- 身構える必要があるのは理不尽な要求型のみ、残り2つは事前準備で対応可能
- 初期対応の一言・確認する順番・法令と規約を優先した対応終了基準、3点の事前決定
起業する前に、まず最初のクレームで使う「お詫びの一言」だけを1つ決めておきます。すべてのパターンを想定して準備し尽くす必要はありません。
その一言をあらかじめ決めておくだけで、実際にトラブルが起きた瞬間の判断は驚くほど楽になります。残りの型は、動きながら少しずつ増やしていけば十分です。

同じような不安を抱えていた会員さんを何人も見てきましたが、こうして先に心配ごとを言葉にできる人ほど、実際にトラブルが起きたときの動きは早いものです。
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