記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
平日は勤めに出ていて、週末だけ自宅でネイルの施術を受け付けています。仕上がりの写真を撮らせてもらったり、うれしい感想をいただいたりすることはあるのですが、そのままホームページに載せていいのか判断がつかず、実績の欄は空のままです。
お客様の写真やいただいた声を実績として載せるときは、どこまで許可をもらえばいいのでしょうか?

● 回答
「顔が写っていない写真なら、ひとこと断らなくても載せてよい」。この線引きだけで進めると、あとで取り下げを頼まれたときに手元に何も残っていません。掲載の許可は、施術や納品が終わった直後の連絡に、用途・掲載する場所・取り下げの頼み方の3点を書き添え、「掲載可」の返信を1通もらう形にすれば残せます。
印刷して押印してもらう必要も、専用の書式もいりません。むしろ、かしこまった書面にするほど、お客様のほうが身構えてしまいます。
実績がないのではなく出せていないだけ
「実績がないので、載せられるものがありません」と言われて中身をうかがうと、作業前後の写真も、お礼のメッセージも、たいてい手元には残っています。足りないのは事例のほうではなく、それを表に出してよいという許可のほうです。
許可さえ取れていれば、3件でも実績のページは作れます。逆に、承諾のないまま並べてしまうと、あとから1件でも取り下げを頼まれたときに、全部を下ろすことになりかねません。
載せる中身で変わる3つの確認レベル
仕上がりの写真と、いただいた口コミをひとまとめに考えると、どこまで聞けばいいのかが決まりません。載せる中身を3つに分けると、聞いておく範囲が見えてきます。
- レベル1 人が写らない手元・仕上がりだけの写真:
撮影と掲載の可否を口頭で確認し、その日付と相手の名前をメモ - レベル2 顔や全身で本人が判別できる写真:
掲載する場所と使う期間を明記した文面での承諾 - レベル3 名前・年代・地域つきの感想:
感想の原文、匿名化する項目、掲載先・期間、抜粋や表記調整の可否を本人に選んでもらう確認
レベル1だけでも、実績のページは動き出します。迷ったときは、その写真の中に「本人だと分かる情報」がいくつ含まれているかを数えると、必要な確認の重さが決まります。
もう1つ押さえておきたいのは、自分も個人情報を扱う事業者に当たるという点です。2017年に全面施行された改正個人情報保護法で、取り扱う件数の下限がなくなり、ひとりでサービスを提供している方も対象になりました。集めた情報を何に使うかをできる限り特定し(第17条)、その範囲を超えて扱うなら本人の同意を得るのが原則です(第18条)。
ホームページのように不特定多数が見られる形で載せる場合は、第三者への提供として整理されることもあります。判断が分かれる領域だからこそ、載せる前に一言もらっておく価値があります。
納品の連絡に入れる一文の作り方
いちばん通りやすいのは、作業やお渡しが終わった直後の連絡に、掲載してよいかを一緒に聞いてしまうことです。満足を口にしてもらえることが多いのはこの瞬間で、日をあらためて頼むより、話が早く済みます。
- 用途:
今回の仕上がり写真を、名前と顔を出さない形で施術例として使うこと - 掲載する場所:
自分のホームページとSNSの投稿(掲載期間はページを公開している間) - 取り下げの頼み方:
「掲載は控えてほしい」という返信1通で見送り - 返信の形:
問題なければ「掲載可」の一言だけ返信
文章にすると、たとえばこうなります。「本日の仕上がりの写真を、ホームページとSNSに施術例として掲載させていただいてもよろしいでしょうか? お名前とお顔は出さず、手元の写真のみを使います。掲載を希望されない場合は、このメールにその旨だけご返信ください。問題なければ「掲載可」の一言で結構です」
感想も載せる場合は、写真とは別に、掲載する原文か抜粋箇所、匿名化する項目、掲載先、誤字修正や要約の可否を示し、「この文面で掲載可」と返信をもらいます。創作性のある感想文には著作権や同一性保持権が関わることがあるため、写真の承諾だけで兼ねないほうが安全です。
感想はその方の体験として紹介し、サービスの効果を一般化する根拠にはしません。広告で効果を断定する表現には、掲載許可とは別に、その表示を裏づける合理的な根拠が必要です。
大事なのは、断るほうの手数を先に軽くしておくことです。返信に書いてもらう言葉を「掲載可」の一言だけにしておくと、返事そのものが返ってきやすくなります。
あとから取り下げを頼まれたときの段取り
掲載をためらういちばんの理由は、あとで「やっぱり消してほしい」と言われる場面が想像できないことにあります。ここは先に決めておけば、こわい場面ではなくなります。
個人情報保護委員会は、本人の同意について、必ずしも書面による必要はないとしたうえで、紛争回避の観点から書面(電磁的記録を含む)によることが望ましいとしています。口頭で得た場合も、同意を得た方法・日時・担当者を記録しておくことが望ましいと示されています。
裏を返せば、メールの返信が1通あれば、それがそのまま同意の記録になります。取り下げを頼まれたら、その返信をたどって「いつ・どこに・どの範囲で」載せたかを確かめ、該当箇所を外し、外した日付を同じスレッドに書き添えて返しておけば済みます。
肖像権は、条文があるわけではなく、判例の積み重ねで人格的な利益として認められてきたものです。最高裁は2005年の判決で、撮影された写真をみだりに公表されない利益にも触れています。だからこそ、こちらから先に確認しておく意味があります。
手順をここまで決めておくと、頼む側の気持ちがずいぶん軽くなります。断られる可能性そのものより、断られたあとにどう動くかを決めていないことのほうが、実際には動けない理由になっています。
紹介が続いてから熊谷さんが変えたこと
整理収納の仕事を週末に受けている熊谷さん(40代後半)は、作業前と作業後の写真を毎回撮っていました。もともとは、作業のあとにお礼のメッセージを送るだけで、掲載してよいかを尋ねたことは一度もありませんでした。そのまま2年が過ぎ、ホームページの実績欄は空のままでした。
空欄が気になり始めたのは、1人のお客様が知人3人を続けて紹介してくれたときでした。紹介で来た方が「前の方に、片付いたあとの部屋の写真を見せてもらいました」と話すのを聞き、写真は個人のやりとりの中では回っているのに、自分のページには1枚も無いことに気づきました。
そのあと、起業18フォーラムの勉強会で、ほかの会員さんが作業完了の連絡に掲載の許可を求める一文を入れて運用していることを知り、自分の定型文にも組み込みました。用途と掲載する場所、取り下げの頼み方を書き、「掲載可」の返信をもらう形です。
一文を入れ始めて3ヶ月目には、承諾つきの事例が10件を超えました。いまは延べ34件がページに並び、初回の問い合わせでも「この写真と同じ状態にしてほしい」と言われるようになりました。先に承諾の形を決めておけば、写真は撮った分だけ実績として積み上がります。
拙著『起業神100則』では、起業活動の核心は信用の積み重ねだと紹介しています。会社の看板が外れた時点で、自分の信用はいったんゼロに戻ります。そこに積み直せるのは、実際にやった仕事の記録だけです。
撮った写真の数と、載せられる写真の数の差は、腕前の差ではありません。掲載の承諾を取るという作業は、その記録を1件ずつ自分の手元に残していくことそのものです。
今日は、次に施術が終わるお客様へ送る連絡の定型文に、用途と掲載する場所、断りたいときの一言を足しておいてください。次の1件から、承諾のついた事例がたまり始めます。

載せてよいか迷って手が止まるのは、お客様との関係を大切に思っているからです。その慎重さを確認の一文という形にしておけば、写真も感想も安心して表に出せます。
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