記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
去年から、勤め先とは別に受けた仕事で収入が入るようになりました。自宅の一室を作業場所にしていて、家賃や電気代も経費に入れられると聞いたのですが、いくらまで入れていいのかが分かりません。
多めに入れて後から否認されるのも怖いですし、少なめにして税金を払いすぎるのも嫌です。自宅で作業した分の家賃や電気代は、どうやって経費に入れればいいのでしょうか?

● 回答
あくまでも一般論でお答えします。「家事按分 割合」で調べると、30%、50%と、いろいろな数字が並びます。読むほどに自分の家はどれに当てはまるのか分からなくなり、ここで止まってしまう方は多いです。ただ、所得税法施行令第96条が求めているのは割合の大きさではなく、業務に必要な部分を明らかに区分できることのほうです。決めた割合そのものより、その割合をどうやって出したかを残しておくほうが、あとになって効いてきます。
割合の正解表はどこにも載っていない
「家賃は何割まで入れていいですか?」という質問を、これまで数え切れないほど受けてきました。期待されているのは「◯割までなら安全」という一行の答えです。けれど、そういう一覧は国税庁のどこを探しても出てきません。
出てこないのは、意地悪をされているからではありません。同じ「自宅の一室」でも、部屋の広さも、そこで過ごす時間も、家ごとにまるで違うからです。だから割合は、誰かの数字を借りてくるものではなく、自分の家の事実から出すものになります。事実から出した数字なら、聞かれても答えられます。借りてきた数字は、聞かれた瞬間に手詰まりです。
法律が見ているのは大きさではなく区分
根拠になる条文を先に置いておきます。所得税法第45条は、家事上の費用を必要経費にしないと定めています。その例外を書いているのが所得税法施行令第96条で、第1号は「主たる部分が業務の遂行上必要」であり、かつ「その必要である部分を明らかに区分することができる場合」の、その部分だけを認めています。
ここで多くの方が引っかかるのが「主たる部分」という言葉です。国税庁の所得税基本通達45-2は、これを業務に必要な部分が50%を超えるかどうかで判定するとしています。ただし、と続く一文が大事なところです。必要な部分が50%以下であっても、その部分を明らかに区分できるときは必要経費に算入して差し支えない、と書かれています。
つまり「半分を超えていないと家賃は入れられない」は誤解です。2割でも1割でも、区分できていれば入れられます。逆に言えば、区分の説明ができないなら、たとえ3割でも根拠のない数字ということになります。
青色申告をしている方には、同じ第96条の第2号が使われます。取引の記録などから業務に直接必要だったことが明らかにされる部分、という書き方です。どちらの入口から入っても、行き着く先は帳簿と記録になります。なお、ここで挙げた条文と通達は、2026年7月時点で国税庁が公開しているものです。
面積で分けるか時間で分けるか
では、何を根拠に区分すればいいのか。実務で使えるものさしは、面積と時間、そしてその掛け合わせに絞られます。
- 面積で分ける:
仕事だけに使う部屋やスペースがある場合。住まい全体の床面積に対する、その部分の面積の割合 - 時間で分ける:
場所を生活と共有している場合。1週間や1ヶ月の使用時間のうち、仕事に使った時間の割合 - 面積と時間を掛ける:
兼用の部屋しかない場合。面積の割合に、その部屋を仕事に使っている時間の割合を掛けた数字
在宅勤務が広がって按分が崩れた栗田さんの2年目
機械部品メーカーで生産管理をしている栗田さん(仮名・40代後半)は、賃貸マンションの洋室を作業場所にして、勤め先とは別の仕事を始めました。1年目の申告では、家賃と電気代を「だいたい3割」で経費に入れました。根拠を聞かれても答えられる状態ではありませんでしたが、そのときは何も起きませんでした。
2年目の春、勤め先が在宅勤務の日を増やしました。同じ部屋で本業の作業もこなすようになります。去年と同じ3割でいいのか、それとも減らすべきなのか。自分でも説明がつかないと気づいた時点で、手が止まりました。
起業18フォーラムの勉強会でこの話を出したことが、動き出すきっかけになりました。同じように自宅で作業している会員が、面積と時間の二段構えで分けていて、間取り図のコピーに作業スペースを線で囲んだメモを一緒に保管している、と話してくれたのです。栗田さんはその晩、巻き尺を出して部屋を測りました。
作業に使っている洋室は4.5畳、約7.3平方メートル。住戸全体は55平方メートルでしたから、面積の割合は約13%になります。そこから1ヶ月、その部屋を誰がどれだけ使ったかを手帳の端に書き足していきました。自分の仕事が週におよそ12時間、勤め先の在宅勤務が週におよそ15時間。面積の13%を、この比率でもう一度割ることにしました。
出てきたのは約6%で、去年の3割よりずっと低い数字です。それでも栗田さんはこちらを選びました。2年目の確定申告では、家賃の欄で手が止まらなかったといいます。金額は減りましたが、聞かれたら答えられる数字に変わりました。
この話には続きがあります。栗田さんは今年、その部屋から生活用の物を出して、仕事だけに使う部屋に切り替えました。生活と分けてしまえば、面積の割合をそのまま使って説明できるからです。割合を上げるために数字をいじるのではなく、部屋の使い方のほうを変えたことになります。順番としては、こちらが健全でしょう。
ここまでの流れで、つまずきやすいところも見えてきます。
- 毎年おなじ割合を使い回す:
引っ越し、在宅勤務の増減、家族構成の変化があれば、根拠を失ったままの前年の数字 - 根拠を残さず数字だけ決める:
面積も時間も測らないまま「だいたい」で入れた、数年後には自分でも再現できない数字 - 生活の色が濃い費用まで入れる:
水道代や食費など、業務との関係を区分しにくい費用まで広げること
持ち家でローン控除を受けているなら10%の線
持ち家の方は、経費だけを見て割合を決めないほうがいいです。住宅借入金等特別控除は、居住用の部分に対応する分だけが対象になります。国税庁の租税特別措置法関係通達41-29では、居住用部分の床面積が家屋全体のおおむね90%以上であれば、その全部を居住用として扱ってよいとされています。
裏を返せば、仕事で使う割合が10%を超えたところから、控除のほうが按分されて減っていきます。家賃のない持ち家で経費に入るのは、建物の減価償却費や固定資産税、火災保険料などです。増える経費と、減る控除。この2つを並べてから割合を決める方は、正直あまり多くありません。ここは一度、電卓を出す価値があります。
暮らしの延長で始めるから線引きが要る
拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』では、月5万円くらいまでは今の暮らしの延長で一人でも手が届く範囲、10万円あたりから仕組みが要る、という線の引き方を紹介しています。最初の1年は、たいていこの手前にいます。
暮らしの延長で始めるということは、住まいと仕事が同じ屋根の下で混ざるということでもあります。混ざったものを後から分けるのは骨が折れますから、始めた月から分ける手立てだけ用意しておく。家事按分は税金の話に見えて、実は自分の仕事の輪郭をどこに引くかという話でもあります。
- 間取り図と実測メモ:
作業スペースを線で囲み、縦横の実測値と測った日付を書き添えたもの - 使用時間の記録:
1ヶ月でよいので、その場所を仕事に使った時間を日ごとに残したもの - 計算の途中式:
面積の割合と時間の割合をどう掛けて按分率を出したかを、一行で書いたメモ
難しい準備は要りません。今夜、巻き尺かスマートフォンの計測アプリを持って、作業に使っている場所の縦と横を測ってみてください。出た数字には、測った日付を添えて残しておきます。面積が出たら、次の1ヶ月は、その場所を仕事に使った時間を手帳の端に書き足していきます。
この2つが手元にあれば、割合は自然に決まります。決まった割合が高いか低いかを気にするより、その数字を出した道筋が残っているかどうかを気にしてください。条文が見ているのも、そちらです。
同じところで手が止まる方を、これまで何人も見てきました。割合の正解を探すより先に、その割合をどう出したかを説明したいと思えたのなら、あなたの帳簿は去年より一段確かなものになっています。
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