記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
親が「起業の元手にしなさい」と、まとまったお金を出すと言ってくれました。ありがたい話なのですが、その申し出をそのまま素直に受け取ってしまってもいいのでしょうか?

● 回答
親からの資金援助は、受け取り方さえ最初に決めておけば、起業準備の心強い後ろ盾になります。大事なのは金額の大小ではなく、そのお金を「贈与」として受け取るのか、「貸付」として整理するのかを、使う前にはっきりさせておくことです。
ありがたい申し出を前に、素直に喜べない自分に戸惑う人は少なくありません。せっかくの好意を疑うようで気が引ける一方で、あとになって「あのお金のせいで」と自分にも親にも負い目が残るのではという不安もよぎります。この気まずさの正体は、お金そのものではなく、線引きが決まっていないことにあります。
ここでは、税金や制度の面から知っておきたいことを整理したうえで、実際に親からの申し出を受けた桐生さんという会員さんの例とあわせて、線の引き方を紹介します。
なぜ最初に「贈与か貸付か」を決めておく必要があるのか
国税庁のタックスアンサーNo.4402(2026年7月時点)によれば、1人が1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計が110万円以下であれば、原則として贈与税はかからず、申告も不要です。複数の人から受けた場合も、受贈者ごとに合計して判定します。
問題は、金額が110万円を超える場合や、「貸付」として受け取るつもりのお金です。名目だけ「借りた」ことにしておけば済むと考える人もいますが、税務上はそう単純ではありません。
国税庁のタックスアンサーNo.4420(2026年7月時点)は、返済期限を決めない「ある時払いの催促なし」や「出世払い」といった曖昧な条件、実質的に贈与であるにもかかわらず形式上貸借としている場合には、借入金そのものが贈与として取り扱われると明記しています。
つまり、借りる人の返済能力に見合う金額と返済期限・返済方法を決め、実際に返済していく実績があるかどうかが重要です。無利息の場合は利息相当額が贈与として扱われることがありますが、利息の設定だけで貸付の実態が決まるわけではありません。
受け取り方は主に3つに分かれる
この贈与と貸付の境目を踏まえると、親からの資金は主に次の3つの受け取り方に整理できます。
- 贈与として受け取る:
基礎控除の範囲内(1年間に受ける贈与の合計が110万円以下)に区切った受け取り - 貸付として整理する:
返済能力に見合う返済期限・返済方法を決めた借用書と、実際の返済実績。無利息の場合は利息相当額の取扱いも確認 - 今は受け取らない:
「困ったときのお守り」として据え置く選択
平均調達額のうち家族・友人等の資金はどれくらいか
日本政策金融公庫の調査から、平均調達額のうち家族や友人等の資金が占める金額を確認できます。
日本政策金融公庫「2024年度新規開業実態調査」によると、開業時の資金調達額は平均1,197万円です。その内訳は、金融機関等からの借入が780万円(65.2%)、自己資金が293万円(24.5%)、配偶者や親、兄弟姉妹、親戚からの資金が45万円(約3.8%)、友人・知人等からの資金が34万円(約2.8%)、その他が45万円(約3.8%)でした。
家族や友人等からの資金も、平均調達額を構成する資金源の一つです。利用する場合は、贈与と貸付のどちらなのかを明確にします。
桐生さんの場合
起業18フォーラムの会員さんに、桐生さんという40代前半の女性がいます。食品メーカーで経理のパートを続けながら、焼き菓子の通信販売を目指して準備を進めていました。
準備を始めた頃、桐生さんの実家から「起業の元手にしなさい」と200万円を出すという申し出がありました。桐生さんは深く考えないまま、そのお金を開業資金にも生活費の足しにも使うつもりでいて、贈与か貸付かという区別すら意識していませんでした。
ある晩、夫から「そのお金、全部お義母さんが出してくれるお金だよね。全部使い切っていいものなの?」と聞かれ、桐生さんは即答できませんでした。当たり前だと思っていた申し出を、初めて他人の目で見た瞬間でした。
その週末、桐生さんは起業18フォーラムの勉強会に参加を申し込み、資金の受け取り方について相談したいと事前に伝えました。
勉強会では、他の会員が家族からの支援を借用書付きの貸付として整理した実例や、基礎控除を踏まえた金額の区切り方を聞くことができ、自分の状況にも当てはめて考えられるようになりました。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、起業準備を始める前に予算・期間・出口の3つを仮決めしておくことを勧めています。
桐生さんはこの考え方を、親の資金を使う範囲と自己資金で賄う範囲の線引きにも当てはめ、実際に受け取るのは焼き菓子用のオーブンと包装設備にかかる50万円分だけに決めました。返済期限と月々の返済額を記した簡単な借用書を親と交わし、残りの150万円は「困ったときのお守り」として、今は受け取らない選択をしました。
生活費は自分のパート収入と貯金の範囲でやりくりすると決めたことで、桐生さんの中で「親のお金だから使い方を間違えられない」という重さが、具体的な返済計画という扱いやすい形に変わりました。
開業から数ヶ月が経ちますが、材料費や配送費といった毎月の運転資金は、すべて自分の売上の中から出せているといいます。親から借りた50万円は、最初のオーブンと包装設備の分だけで役目を終えています。
今日すぐにできる確認
親からの好意をありがたく受けながらも、金額を決める前に整理しておきたいことは、大きく2つです。
- 贈与か貸付かをはっきりさせる:
金額を決める前に、親と自分の間で交わす確認 - 使う範囲を先に線引きする:
設備投資分など、必要な金額だけに絞った受け取り
親からの申し出を受ける前に、「これは贈与なのか、貸付なのか」を一度だけ、はっきり言葉にして確認しておきます。
贈与と貸付の境目を知っておくだけで、親の好意を素直に受け取れるようになった会員さんを、これまで何人も見てきました。

親から差し出されたお金は、感謝の対象であっても、遠慮し続ける対象にする必要はありません。線引きさえ決めておけば、それは負い目ではなく、事業を支える確かな後ろ盾に変わります。
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