記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
「名古屋に出れば、仕事はあります。でも自分の看板は、岐阜で持ちたい」。準備講座に来ていた、岐阜市にお住まいの40代の方が、こう話してくれました。岐阜で何かを始めたい、という相談は珍しくありません。
岐阜市で仕事を作る近道は、名古屋まで電車で約20分という通勤圏を保険に残すことです。そのうえで、繊維卸と長良川観光という地元固有の需要に、まず1件だけ応えてみます。人口約39.7万人の岐阜市は、名古屋の陰に隠れて目立ちませんが、会社に勤めながら自分の事業を試すには、むしろ条件がそろっています。
名古屋に通えば、給料はもらえます。それでも「自分の名前で、この街の誰かの役に立ちたい」という思いは、簡単には消えないものです。岐阜という土地の何を強みにして、どこから動けばいいのか。まずは、この街がどんな経済圏に置かれているかを押さえるところからです。
岐阜市は「名古屋の隣にある繊維の街」

岐阜市の住民基本台帳人口は2026年6月1日現在で396,560人、名古屋駅までJR東海道本線の快速で約20分という距離です。この近さがあるため、「岐阜で起業するより、名古屋に出たほうが早い」と考える人が少なくありません。
ただ、岐阜には名古屋にない資源があります。ひとつはJR岐阜駅前を中心とした繊維・アパレルの集積です。岐阜は東京・大阪と並ぶアパレルの三大産地と呼ばれ、問屋街と縫製工場が今も集まっています。
もうひとつが、長良川と鵜飼に代表される観光です。そして三つめが、名古屋に通う人たちが暮らす、購買力のある生活圏そのものです。この三つは、試せる需要の入口になります。
- 繊維・アパレルの集積:
小ロットの生地や縫製に詳しい人への相談・目利き需要 - 長良川と鵜飼の観光:
市外・県外から来る人に向けた体験づくりや発信の需要 - 名古屋通勤圏の生活者:
平日は名古屋、休日は岐阜で過ごす人の暮らしまわりの需要
どれも派手ではありません。それでも、地元の人が「当たり前」と思っている場所にこそ、外の人が困っている需要が眠っています。次の章から、順に見ていきます。
繊維の街の「当たり前」を「何に詳しい人」に変える

拙著『起業神100則』では、「あなたは『何に詳しい人』と呼ばれているか」という問いを紹介しています。起業の入口は、新しい才能を探すことではなく、すでに持っている知識に名前をつけることから始まります。
岐阜の問屋街や縫製の現場で働いてきた人にとって、生地の相場や小ロットの扱いは日常の常識ですが、三大産地の外に出れば、全国のハンドメイド作家や小規模ブランドが知りたい情報です。
本人にとっては、わざわざ商品にするほどのものに見えません。ここに落とし穴があります。
会社の中で当たり前だった知識ほど、外では「その道に詳しい人」の入口になります。
繊維に限りません。市役所での手続きに詳しい、地元の飲食店の事情に詳しい、子育て世帯の動きに詳しい。岐阜で長く暮らしてきたこと自体が、外の人には価値のある「詳しさ」です。
長良川と鵜飼の観光需要を会社員が拾う

長良川の鵜飼は2026年も5月11日から10月15日まで、鵜飼休みと増水時を除いて行われ、1300年以上の歴史があります。市外・県外から人が集まるこの観光の流れは、会社に勤めながらでも拾える需要です。
大きな観光施設を作る話ではありません。来た人が困っていることに、小回りで応える形です。たとえば、川沿いの過ごし方をまとめた発信、地元の人しか知らない店の案内、体験のあとの写真や動画づくりなどです。
こうした事業は在庫を持たずに始められます。鵜飼の時期の週末だけ動く、という組み立ても現実的です。観光の需要は季節に波がありますから、通年の別の柱と組み合わせておくと安定します。
名古屋通勤圏を「保険」にした始め方

日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査では、開業時の平均年齢は43.9歳で、最も多い年齢層は40代(36.9%)でした。会社で経験を積んでから、40代前後で自分の事業を始める人が多い、という流れが読み取れます。
名古屋への通勤圏であることは、岐阜で事業を始める人にとって大きな安心材料です。本業の収入を残したまま、休日に岐阜で試せるからです。うまくいかなくても生活が崩れないので、傷が浅くてすみます。
この足場の作り方には、いくつか型があります。
- 対面は回数を絞る:
平日は名古屋で働き、月に数回だけ岐阜で打ち合わせや現場に立つ - 在庫を持たない:
地元の店や作家からの受注を1件ずつ受け、作ってから仕入れる - 発信で待つ:
岐阜の話題を発信し、市外の人からの問い合わせが来るのを待つ
最初から会社を辞めて退路を断つより、名古屋の仕事を残したまま岐阜で小さく試すほうが、続けやすく、判断も冷静になります。
「二拠点」と聞くと大げさに感じるかもしれません。名古屋で働き、岐阜で自分の事業を育てる。それも立派な二拠点の形です。
岐阜市の創業支援は方向が固まってから使う

岐阜市は平成26年3月に、県内で初めて創業支援等事業計画の認定を受けました。特定創業支援等事業として認められた講座を4回以上・ひと月以上かけて受けて修了すると、市の証明を申請できます。証明を受けた個人が岐阜市内で株式会社または合同会社を設立し、発起人かつ代表者になるなどの条件を満たす場合、登録免許税が資本金の0.7%から0.35%に軽減されます。
市の証明書を取得すると、創業関連保証について、通常より早い事業開始6か月前から申込みの対象になり得ます。ただし、保証には別途審査があります。認定を受けた連携機関には、岐阜商工会議所も入っています。
ただし、何を売るかが決まっていない段階で窓口に相談に行っても、担当者も答えようがありません。補助金や支援制度は、行き先が決まった人にとって強力な道具になります。
順番が大事です。まず自分の方向を固め、そのうえで支援制度を道具として使う。この順で動くと、制度の効き目がまるで変わってきます。
週末に街を歩いて自分の強みを見つけた話

岐阜市で生地の品質管理を担当していた棚橋さん(40代)は、最初、自己流で動いていました。岐阜の生地を使ったハンドメイド雑貨を自分で作って売ろうとしたのですが、在庫だけが増えていきました。
転機は、ある週末の行動でした。柳ケ瀬や駅前の問屋町を歩き、看板を出している店主に「なぜこの街で店を開いたのですか」と、1店につき3分だけ聞いて回ったのです。何軒も回るうちに、小ロットの生地が余って困っている作家や店が多いという、共通の悩みが見えてきました。
そこで棚橋さんは、起業18フォーラムの勉強会に参加し、「自分は何に詳しい人と呼ばれるか」を整理しました。行き着いたのは、雑貨づくりではなく「岐阜の生地の目利き」でした。余った生地と、それを求める作家をつなぐ役割です。
自分の強みは、机の上ではなく、街を歩いて人に会うなかで見つかりました。
始まりは、聞いて回った店からの受注が1件。そこから問屋町の紹介で依頼が続き、今では数件の常連と定期的に取引しています。派手な数字ではありませんが、岐阜という土地に根を張った仕事になりました。

よくある質問

Q.岐阜で起業するより、名古屋に出たほうが有利ですか?
名古屋は市場が大きい分、競合も多い街です。岐阜には繊維卸や観光といった地元固有の需要があり、本業を続けながら試すには足場を作りやすい利点があります。名古屋の市場も視野に入れつつ、拠点は岐阜に置く、という両にらみが現実的です。
Q.繊維やアパレルの経験がなくても、岐阜の強みは活かせますか?
活かせます。長良川の観光、名古屋通勤圏の生活者向けなど、繊維以外の需要も複数あります。自分が「何に詳しいか」から入口を選べば、業種は問いません。
Q.岐阜市の創業支援は、いつ使えばいいですか?
何を売るかの方向が固まってからです。特定創業支援等事業を修了し、岐阜市内で株式会社または合同会社を設立して発起人かつ代表者になるなどの条件を満たす場合、登録免許税が0.7%から0.35%になる制度があります。ただし方向を決めるのが先で、制度はそのあとに効いてきます。
Q.週末だけでも、岐阜で事業を始められますか?
始められます。在庫を持たずに1件ずつ受ける、地元の話題を発信して市外からの問い合わせを待つ、といった週末サイズの試し方があります。無理のない範囲で回数を重ねてください。
岐阜で踏み出す最初の一歩

岐阜で自分の仕事を作るなら、まず起業18フォーラムの動画やセミナーで「岐阜の何を強みにするか」の全体像をつかむのが近道です。方向が見えてきたら、岐阜市の産業振興課や岐阜商工会議所に「創業相談の窓口はありますか」と聞いてみてください。地元ならではの支援が見つかることがあります。
今日できることは、次の休日に駅前の問屋町や商店街を歩いて、気になった店主に「なぜこの街で店を開いたのですか」と一言だけ聞いてみることだけで十分です。
岐阜という地名を名乗って自分の看板を出すと、名古屋の会社の名刺で会うのとは、相手の反応が変わります。それを自分の目で一度確かめてみてください。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
