配偶者に安定収入があるなら、起業でリスクを取っていい?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

夫に安定した収入があるので、私が多少無理をしても、当面の生活は回ります。ありがたい環境だとは思うのですが、だからこそ貯金をどこまで起業につぎ込んでいいのか、自分では線引きができません。周

りからは「支えてくれる人がいるなら思い切りやれる」と言われる一方で、甘えている気もして落ち着きません。配偶者に安定した収入がある場合、どこまでリスクを取って起業していいのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

「いつまで挑戦を続けるか」の“いつまで”を、あなたは何円で線引きしていますか。配偶者に安定した収入があるなら、生活を崩さない範囲で数百万円規模の挑戦も十分に取れます。ただし条件が一つあります。「ここまで使ったら一度立ち止まる」という撤退ラインを、先に一本引いておくことです。

これまで延べ6万人の起業準備に関わってきましたが、収入面の支えがあるご家庭ほど、やめ時が見えずに長く消耗する場面を何度も見てきました。支え手がいるご家庭ほど、攻める前に「やめ時」を先に決めておくことが、挑戦を長く続ける条件になります。安定は、攻めの燃料にもなれば、判断を先送りする麻酔にもなります。

安定収入があるほど、やめ時が見えなくなる

拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』では、起業準備を支えるのは「知・人・金」の3つのチカラだと紹介しています。配偶者の安定した収入は、このうち「金」の土台にあたります。生活費という一番大きな不安を家計が吸収してくれるので、あなたは「人」(顧客や人脈)と「知」(スキルや商品)を育てることに集中できます。

問題は、土台が厚いと「いくら使ったか」「いつまで続けるか」の感覚が鈍ることです。給料が入ってくる限り、赤字が続いても暮らしは崩れません。その安心が、撤退の判断を半年、一年と後ろへずらしていきます。甘えが悪いのではなく、線を引かないまま走り続ける状態が危ういのです。

  • 甘え型:
    支え手の収入を前提に、上限も期限も決めずに使い続ける。損失が膨らんでも気づきにくい
  • 萎縮型:
    迷惑をかけたくない一心で、使えるはずの余力まで抑え込み、試す前にあきらめる
  • 線引き型:
    使ってよい金額と見直す時期を先に決め、その範囲では思い切って攻める
撤退ラインは「いくら」と「いつまで」の2つで引く

では、どのくらいの規模までなら取ってよいのでしょうか。目安になるのが、開業にかかるお金の実態です。日本政策金融公庫が融資した開業後1年以内の企業を対象とする2025年度新規開業実態調査では、開業費用の中央値は600万円でした。一方で「250万円未満」が20.1%を占め、41.8%が500万円未満で始めています。

この幅の広さが大事です。同じ起業でも、数十万円で試せる形もあれば、数百万円かかる形もあります。だからこそ、家計と相談して「この事業に使ってよいのは総額いくらまで」という上限を、自分で決められます。撤退ラインは、この「いくら」と「いつまでに手応えを確かめるか」の2つをセットにして、一本の線にします。

  • 金額の上限:
    生活防衛資金(生活費の半年分など)には手をつけず、それとは別枠で「使ってよい総額」を決める
  • 見直しの時期:
    「◯ヶ月後に売上と手応えを点検する」と期限を切り、続ける・畳む・やり方を変えるを判断する
  • 家計との共有:
    上限と時期を配偶者と一度すり合わせ、一人で抱えず家計全体の合意にしておく

この線があると、安定収入は「麻酔」ではなく「攻めの燃料」に変わります。上限の内側でなら、失敗を恐れずに値付けを上げたり、新しい売り方を試したりできます。まずは生活防衛資金には手をつけないと決め、それとは別枠で使ってよい総額の上限を置いてください。

早乙女さんが「やめ時」を決めてから伸びた話

起業18フォーラム会員の早乙女さん(仮名・30代後半・女性)も、同じ迷いの中にいました。夫に安定した収入があり、手づくりの雑貨づくりに毎月まとまった額をつぎ込んでいましたが、売上は伸びず、それでも「まだ暮らしは回るから」と赤字を続けていたそうです。

ふんぎりがついたのは、夫の勤め先で早期退職の募集が始まったと聞いた日でした。夫の収入も、絶対ではない。外からの変化ではじめて、線引きを自分ごととして考えたと言います。その後、起業18フォーラムの勉強会で撤退ラインの引き方を学び、「使ってよいのはあと30万円、3ヶ月で売れ筋が見えなければ品目を絞る」と決めました。

上限を決めてからのほうが、思い切った値上げやテスト販売に踏み出せたそうです。品目を売れ筋の3つに絞り込み、9ヶ月目に初めて月5万円を超えました。撤退ラインを先に引いたことで、消耗を止めながら手応えのある品目に資源を寄せられました。

あなたに支え手がいることは、引け目に感じることではありません。むしろ、思い切った挑戦を許してくれる貴重な土台です。土台がある強みを、青天井の消耗ではなく、線を引いた上での挑戦に振り向けてほしいと思います。

今日できることは、「ここまで使ったら一度立ち止まる」という金額と時期を、一行だけ自分で決めてみることです。

起業の失敗が怖い人へ|辞める前に決めておく3つの撤退ライン
起業に興味はあるけれど、失敗したら家族の生活まで巻き込んでしまう。そう考えると、どうしても最初の一歩が踏み出せ

退路があるからこそ、人は思い切って前に出られます。撤退ラインという一本の線は、あなたの挑戦を縛るためではなく、安心して攻め続けるために引くものです。


さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

起業アイデア診断
【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!

【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!

ポイント この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます!