記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
電機メーカーで15年ほど、資材の調達を担当してきました。学生時代からの友人に「二人で会社をやらないか」と誘われ、私も前向きに考えています。ただ、共同創業は仲間割れで壊れやすいと聞くことも多く、迷いもあります。
役割やお金の話は、まだ何も決めていません。学生時代の友人と二人で起業するのは、やはり避けたほうがいいのでしょうか?

● 回答
「友人と組むと、うまくいかなくなったときに友情ごと壊れる」。共同創業と聞いて、まずそう身構える方は少なくありません。学生時代からの相手なら、なおさら慎重になります。
ただ、二人で始めることそのものが危ういわけではありません。問題は、友人と組むことではなく、意見が割れたときに誰が最終的に決めるのか、その裏づけとなる株式(出資)の持ち分をどう分けるのかを決めないまま始めてしまうことにあります。株式の保有割合、お金の分け方、辞めたくなったときの扱い。二人で始めてよいかどうかは、この三つを先に決めてあるかどうかで分かれます。
- 株式の保有割合:
意見が割れたときに最終判断できる株式比率が決まっていない状態 - お金:
出資・利益・報酬の分け方が口約束の状態 - 退出:
持ち分と清算方法を決めていない状態
「友人と組むと壊れる」が本当の問題ではない
友人から誘われたということは、相手はあなたの仕事ぶりを見込んでいます。二人なら、片方が苦手な工程をもう片方が引き受けられ、資金も労力も分け合えます。声をかけてもらえたこと自体は、素直に受け取ってよい話です。共同創業がうまくいかなくなる原因は、組んだこと自体ではなく、決めるべきことを決めないまま勢いで始めてしまうことのほうにあります。
共同で始めて伸びる人と一人で始めるべき人
二人で始める強みは、はっきりしています。相談相手が常に隣にいて、判断に迷ったときも一人で抱え込まずにすみます。問題が起きるのは、その二人が対等なまま、何も取り決めをしていないときです。株式も決定権も半分ずつにすると、判断が食い違った瞬間に株主総会で過半数を取れず、会社の運営について何も決められなくなり、事業も友情も同時に止まってしまいます。
だから、役割と最終決定をはっきり分けられる二人は、共同で始めても伸びていきます。反対に、何もかも二人で相談して対等に決めたいという二人ほど、かえって一人で始めて、必要なところだけ相手の手を借りるほうが続きます。向き不向きは、仲の良さではなく、決めごとを分けられるかどうかで見たほうが確かです。
始める前に決めておく三つの取り決め
どう決めておくか。日本弁護士連合会(ひまわりほっとダイヤル)のコラム「仲間と起業。仲間割れによるリスクを防ぐには?」(平田えり弁護士、2019年2月20日)でも、二人の創業者が株式を50%ずつ持つと、意見が真っ二つに分かれたときに株主総会で過半数を取ることができず、会社の運営について何も決められなくなると指摘されています。
株式会社では、原則として「一株一議決権」で、株主は出資割合に応じた議決権を持ちます(種類株式や定款の定めで扱いが変わる場合はあります)。株主総会の普通決議は、原則として出席株主の議決権の過半数(会社法309条1項)、定款変更などの特別決議は出席株主の議決権の3分の2以上の賛成(同条2項)が必要です。日弁連のコラムでは、共同創業のリーダーは「最低でも51%の株式を保有」、可能であれば特別決議も単独で通せる「67%以上」を目安にすることがすすめられています。設計は司法書士や弁護士に確認しておくと確実です。
拙著『会社で働きながら6カ月で起業する』にも、「友達同士で起業するのはリスク」という考え方が出てきます。すすめているのは「一緒に起業」そのものではなく、役割と責任をはっきり分けた、自立した事業者同士のパートナーシップです。二人が別々の事業者として一つの仕事を一緒に回していく形をとれば、仲間割れがそのまま事業の崩壊に直結しにくくなります。
- 株式の保有割合と最終決定:
出資比率、議決権比率、意見が割れたときの決め方(株主間契約など) - お金の分け方:
出資・利益・報酬の割合と、膠着時の解決方法 - 辞めるときの扱い:
どちらかが抜けるときの持ち分の買取りと清算方法
まず、二人で株式会社を作るなら、株式(出資比率)をどう分けるかを始める前に決めてください。日弁連のコラムが示すとおり、50対50は避け、リーダー側で最低51%、望ましくは67%以上を確保するのが一つの目安です。株主総会や取締役の権限は会社法で定まっているため、「話し合いで決める」と口で言うだけでは足りません。持ち分の買取り、調停・仲裁の手続きなどを定款や株主間契約へどう組み込むかは、弁護士などの専門家と設計します。
一人で始めて友人に外注した稲垣さんの16ヶ月
口約束を数えるのをやめたのは、稲垣さん(46歳・仮名)が、友人からの「一緒にやろう」という言葉に期待するのをやめ、取り決めの中身に目を向けてからでした。電機メーカーで資材の調達を15年務め、複数の取引先やメーカーと発注や仕入れの交渉を重ねてきた方です。学生時代からの友人に共同創業を誘われ、当初は勢いのまま二人で会社を作るつもりでいました。
勉強会で出会ったある会員さんは、二人で事業を営みながら、始める前に「株式の保有割合」「抜けるときに持ち分をどう清算するか」まで書面にしていました。その取り決めの中身を知って、稲垣さんの見方は変わります。一緒に始めること自体より、決めごとを先に決めていないことのほうが、後になって関係を壊すのだと、実例を通してはっきり見えたのです。
稲垣さんが選んだのは、二人で一つの会社を作ることではありませんでした。自分は一人で資材調達のサポートを始め、友人には得意な見積書の作成や特定メーカーとの折衝を、そのつど業務委託の形で頼みました。役割ごとに報酬を分け、そのたびに書面を交わしました。
独立後は、勤務先の取引先名簿や非公開の連絡先を使わず、公開されている企業窓口から中小メーカーへ調達サポートを案内しました。単価は一件あたり2万円ほど。始めて間もない頃は月に3件ほどでしたが、取引先を一社ずつ広げるうちに件数も伸び、16ヶ月目には月7件、金額にして月14万円ほどになりました。この間に引き受けた調達サポートは、延べで80件ほどを数えます。
先に決めることさえ決めておけば、二人で始めるという選択そのものは、避けるべきものではありません。稲垣さんは友人と一体になって会社を背負う形をやめ、それぞれが独立した事業者として組む形に変えました。
これは友人を遠ざける選択ではなく、二人の関わり方をつくり直す選択でした。
担当ごとの役割と決済のルールを最初に分けていたので、意見が食い違った月でも、事業も友人との関係も止まりませんでした。
取り決めが二人の間に一本通っていれば、意見のぶつかり合いは、事業を前に進める材料に変わります。
そのうえで、辞めたくなったときにお金や持ち分をどう分けるかを、二人が仲のよいうちに紙に残しておきましょう。関係が良いうちに交わした取り決めは、後になるほど二人を守る力を発揮します。
共同創業を避けるべきかどうかは、相手が友人かどうかだけでは決まりません。決めるべきことを、始める前に決めたかどうかが大きな分かれ目です。

二人で始めるのも、一人で始めて必要なところだけ手を借りるのも、間違いではありません。大切なのは、意見が割れたときの決め方と株式の分け方を自分たちで先に定め、納得して選んだという事実です。それが、友人と過ごした時間も、これから作る仕事も、同時に守ってくれます。
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