記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
Web制作の仕事を一通りこなせるようになると、「このスキルで独立できるのでは」と一度は考えます。実際に独立した人の多くが、最初の半年で同じ壁に当たります。
案件は取れる。けれど、納品が終わると収入がゼロに戻り、また次の案件を探す。この繰り返しから抜け出せないという相談を、これまで何度も受けてきました。
私はこれまで延べ6万人以上の会社員と起業準備の現場で向き合ってきましたが、Webデザイナーの独立には、ほかの職種とは少し違う特有のつまずき方があります。作る技術が高いほど、受託の単発仕事を取り続ける消耗から抜けにくくなるという逆説です。
今日は、その順番をどう組み替えれば受託一辺倒から抜けられるのか、現実的な道のりを順を追って整理します。
あなたの制作スキルは、会社の外でいくらの価値になりますか

最初に問いかけたいのは、この一文です。あなたが日々使っているデザインやコーディングのスキルは、会社の看板を外したとき、会社の外でいくらの価値になると思いますか。
この問いに即答できないまま独立すると、相場という他人の決めた数字に自分の単価を合わせることになります。価格を自分で決められない状態は、独立しても会社員のときと本質が変わりません。受注する相手が上司から発注元に変わっただけで、言われた金額で言われたものを作る構図はそのまま残ります。
市場そのものは伸びています。矢野経済研究所の調査では、国内のデジタルマーケティング市場規模は2024年に3,442億5,000万円(見込み)と推計され、前年の3,019億9,000万円から約14%成長しています。Web制作の需要が縮んでいるわけではありません。だからこそ、伸びている市場の中で「いくらで・誰に・どう続けて売るか」を自分で設計できるかどうかが、独立後の分かれ目になります。
なぜ「受託の取り続け」だけでは消耗するのか

独立したWebデザイナーの多くが、最初は受託案件をこなすことに集中します。これは正しい入口です。問題は、受託だけで走り続ける構造そのものにあります。
案件は「作って終わり」で関係が切れる
受託のWeb制作は、納品した瞬間にお客様との関係がいったん途切れます。次に声がかかる保証はどこにもありません。私が見てきた独立直後のデザイナーさんの多くは、納品のたびに「次の案件はどこにあるのか」と探し直す状態に置かれていました。作る力が高くても、探す時間が収入を生まない時間として毎月のしかかります。
フリーランスという働き方そのものは広がっています。ランサーズの「フリーランス実態調査2024」によると、2024年のフリーランス人口は1,303万人、経済規模は20兆3,200億円に達し、10年前と比べて約40%成長しました。人が増えているということは、同じ受託案件を取り合う相手も増えているということです。探して取る競争は、年々きつくなる方向に進んでいます。
単価交渉が毎回ふりだしに戻る
もう一つの消耗が、価格の交渉です。受託は案件ごとに見積もりを出し直すため、関係が浅い相手とは毎回ゼロから条件をすり合わせることになります。フリーランスのWebデザイナーの月額単価は50万円から60万円あたりが一つのボリュームゾーンとされますが、これは案件が途切れず埋まり続けた前提の数字です。空白の月が出れば、年収はその分だけ目減りします。
受託の取り続けで起きがちなこと
- 収入のリセット:
納品ごとに収入がゼロに戻り、翌月の見込みが立てにくい - 探す時間の負担:
次の案件を探す営業時間が、報酬にならないまま積み重なる - 単価の据え置き:
関係が浅い相手との交渉が続き、価格を上げにくい
ここで誤解しないでほしいのは、受託が悪いわけではないという点です。受託は独立直後の収入を支える大切な柱になります。ただ、その柱を一本だけで立て続けると、足元が常に揺れます。揺れを止める土台を、受託と並行して先に作っておく。これが順番の話です。
先に作るのは「再来の導線」という比率設計

では、どこから手をつけるか。私が独立を考えるWebデザイナーさんにいつもお伝えしているのは、新しい案件を取る前に、一度仕事をした相手がまた戻ってくる道を先に作る、という順番です。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、自分が動かなくても回る仕組みを先に組む比率設計を紹介しています。新規の獲得に全力を注ぐのではなく、新規で取る仕事は全体の2割、残り8割は一度つながったお客様からのリピートで成り立たせるという考え方です。受託で言えば、制作という新規の入口は2割の力で十分にし、残りの力を「作ったあとも続く関係」に向けることになります。
保守・運用という、続く関係の作り方
Webサイトは、公開して終わりではありません。更新が必要になり、不具合が出て、セキュリティの対応も発生します。ここに毎月いくらの保守契約を結んでおけば、制作という単発の仕事が、続く関係に変わります。保守管理の一部を外注する場合の相場は月額5,000円から2万円程度、更新作業やセキュリティ対策まで含めると月額2万円から5万円程度とされています。
一件あたりは小さく見える金額です。けれど、これが10件積み上がれば、案件を探していない月にも収入が立ちます。制作が終わった瞬間に切れていた関係が、毎月の小さな約束に変わるのが保守の本質です。探す時間に追われる構造から、関係を育てる構造へと、土台が入れ替わります。
受託フロー型と保守ストック型を並べて見る
同じ「Web制作で食べていく」でも、収入の作り方は二つに分かれます。下の表で、それぞれの性格を見比べてみてください。
| 比べる視点 | 受託フロー型 | 保守ストック型 |
|---|---|---|
| 収入の出方 | 納品時にまとまって入る | 毎月少しずつ続けて入る |
| 納品後の関係 | いったん切れる | 月単位で続く |
| 営業の負担 | 毎回探し直す | 既存の相手に積み増す |
どちらかではなく、順番として組む
大事なのは、二つを対立させないことです。受託で入口を作り、保守でその関係を続ける。受託が2割の新規、保守が8割の継続。この比率で土台を組めば、受託の単価交渉が毎回ふりだしに戻る消耗からも、少しずつ距離を取れます。続く関係が増えるほど、新しい案件を「取らなければ食べていけない」という焦りが薄まっていきます。
受託に追われなくなったデザイナーさんの話

起業18フォーラムの会員さんで、受託制作会社で働く戸塚さん(仮名・40代)という方がいました。社内では一通りの制作を任されるベテランで、独立しても食べていける腕は十分にありました。
独立した当初、戸塚さんは知り合いのつてで受託案件を取り、ひとつずつ丁寧に納品していました。腕がいいので評判は悪くありません。それでも、納品が終わるたびに収入はゼロに戻り、次の案件を探す日々が続きました。半年ほど経った頃、自分の手帳を見返していて、戸塚さんはあることに気づきます。作る時間より、次を探す時間のほうが長くなっていました。
そこで戸塚さんは、過去に納品した制作先を一社ずつ思い出し、その後そのサイトがどうなっているかを確認しました。更新が止まったまま放置されているサイト、問い合わせフォームが壊れているサイトが、いくつもありました。戸塚さんは、それぞれに「公開後の運用、お手伝いできます」と声をかけ直したのです。
反応はすぐには来ませんでした。それでも、数社が月数千円から1万円台の保守契約に応じてくれました。一件ずつは小さな金額でしたが、半年後には保守と運用の契約がいくつも積み上がり、毎月決まって入る収入が生まれていました。新規の制作は相変わらず受けていますが、その割合は全体の一部に変わりました。戸塚さんは「探さなくていい収入が下にあるだけで、新しい案件を断る判断ができるようになった」と話していました。
戸塚さんの転機は、特別なきっかけがあったわけではありません。自分の手帳を見返して、消耗の正体に自分で気づいたことが出発点でした。すでに一度つながった相手の中に、続く関係の種が眠っていた。それに先に手をつけたことが、受託営業に追われ続ける構造から抜ける入口になりました。
最初の一歩は、過去の制作先への一通から
独立して受託の取り続けに消耗を感じているなら、いきなり保守の事業計画を立てる必要はありません。まずは、過去に制作を納品した相手の中から一社を選び、保守や運用のお手伝いを提案するメールを一通だけ送ってみてください。一度仕事を頼んでくれた相手は、まったくの新規よりもはるかに話を聞いてくれる相手です。そのサイトが今どうなっているかを見て、気づいた改善点を一つ添えれば、提案の説得力が変わります。
よくある質問

Q.保守や運用は単価が低くて、本業の収入にはならないのでは?
一件あたりの金額は確かに小さく見えます。ただ、保守の価値は単価ではなく、続くことと積み上がることにあります。月1万円の契約でも、10件あれば月10万円が、案件を探さない月にも入ります。小さく続く収入は、新規案件の単価交渉に余裕を生む土台になります。下に続く収入があれば、安すぎる案件を無理に受ける必要がなくなり、結果として受託の単価も守りやすくなります。
Q.制作の腕には自信がありますが、保守の営業は苦手です。どうすればいいですか?
営業という言葉で身構える必要はありません。保守の提案は、新規の売り込みとは違い、すでに一度信頼してもらった相手に「その後いかがですか」と声をかけることから始まります。サイトを見て気づいた改善点を一つ伝えるだけでも、相手にとっては気にかけてもらえている安心につながります。売り込むのではなく、続く関係を差し出すと考えると、苦手意識は和らぎます。
独立したばかりのうちは、受託で入る大きな金額に目が向きがちです。けれど、その金額は毎月ゼロに戻ります。下に小さく続く収入があるかどうかが、一年後の落ち着きを大きく変えます。
今日できることは、過去に制作を納品した相手を一社思い出し、保守の提案メールを一通だけ下書きしてみるだけで十分です。送るかどうかは、書いてから決めればいいことです。

作る技術は、すでにあなたの中にあります。あとは、その技術が一度で終わらず続いていく道を、自分の手で引いていくだけです。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
