記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「国家資格を取れば、相談の仕事は向こうから来る」。キャリアコンサルタントの登録を終えた方の多くが、この期待が外れるところからつまずきます。名刺の肩書きは立派になったのに、有料の申し込みは一向に増えません。
この記事では、キャリアコンサルタントの資格を活かして起業したい方に向けて、「仕事がない」が生まれる構造と、企業・学校・個人という3つの入口の選び方、無料から有料へつなぐカリキュラムの組み方を、順を追って整理します。
登録者86,370人。それでも「仕事がない」が生まれる理由

最初に、外側の景色を確かめておきましょう。国家資格キャリアコンサルタントWeb登録センターの公表によると、登録者数は2026年3月末時点で86,370人。国家資格となった2016年から、毎年増え続けています。
相談の場も育っています。厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」では、正社員に対してキャリアコンサルティングを行うしくみを導入している事業所は49.4%と、前回調査から7.8ポイント上がりました。資格者が増え、相談の場も広がっている。条件はそろっているように見えます。
それでも「仕事がない」と感じる方が後を絶たないのは、なぜでしょうか。相談業の独立を26年見てきた経験から言うと、原因は能力でも営業力でもなく、もっと手前にあります。資格は相談に乗る力の証明であって、お金を払って買ってもらう商品そのものではありません。買い手が現れないのは、選ばれていないからではなく、売り物がまだ存在していないからです。
登録証を商品に変える作業には、決まった手順があります。ここからは、その手順を3つのフェーズに分けて見ていきます。
フェーズ1:「キャリア相談します」を看板から下ろす

キャリアコンサルタントの活動先は、大きく3つに分かれます。それぞれ商品の形も、入口までの距離も違います。
- 企業向け:
管理職の面談力研修や採用・定着の支援。単価は高い一方、実績と紹介が入口になる世界 - 学校・大学向け:
就職支援やキャリア講座の外部委託。年度単位の公募が中心で、締切からの逆算が前提 - 個人向け:
模擬面接や職務経歴書の相談。単価は低いものの、今日から小さく試せる唯一の入口
どの入口を選ぶにしても、先に決めることがあります。「誰の、どの場面の困りごとに乗るのか」です。買い手が探しているのはキャリアコンサルタントという肩書きではなく、目の前の困りごとを解いてくれる相手です。「キャリアの悩みなら何でも」という看板は、残念ながら誰の検索にも引っかかりません。
絞り込みの材料は、転職サイトの求人票にあります。「応募が集まらない」「採用してもすぐ辞めてしまう」。募集要項の行間には、企業側の困りごとがそのまま書かれています。自分の職歴と重なる業界の求人票を読み込んでいくと、誰のどの場面に自分の出番があるのかが、具体的な言葉で見えてきます。
フェーズ2:無料の15段を作る。100階段カリキュラムの応用

商品の輪郭が決まったら、次の壁は「無料なら頼まれるのに、有料にすると誰も来ない」という段差です。ここを精神論で越えようとすると消耗します。必要なのは、無料と有料のあいだに階段を架けることです。
拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、提供したい知識を100段の階段に分け、最初の15段までは無料で公開し、16段目から有料にする「100階段カリキュラム」という設計を紹介しています。相談業に置き換えると、無料の段とは「ここまで触れたら、この人に頼みたい」と思ってもらうための信用の積み上げです。たとえば模擬面接を商品にするなら、無料の段にはこんなものが置けます。
- 求人票の読み方メモ:
募集要項のどこに会社の本音が出るかをまとめた1枚資料 - 10分のワンポイント動画:
職務経歴書の冒頭3行だけを直す短い解説 - 20分のミニ面談:
個別の処方には入らず、困りごとの整理までで終える体験版
ひとつだけ、注意があります。無料の段に「その人だけへの個別回答」まで載せてしまうと、有料に進む理由が消えてしまいます。気づきまでは無料で渡し、その人専用の処方から先を有料にする。段差の置き場所が決まると、罪悪感なく値段を口にできるようになります。
フェーズ3:16段目からの有料商品と、費用を取り戻す設計

無料の段で信用が積み上がってきたら、16段目から先、つまり有料商品の出番です。個人向けなら、本番形式の模擬面接90分とフィードバックシート、職務経歴書の添削などが最初の商品になります。価格は数千円から1万円台で構いません。有料の入口は、その人専用の処方が始まる場所に置くのが原則です。
企業向けは、管理職向けの面談勉強会を60分の小さな枠で始め、手応えを確かめてから半日研修へ広げる道があります。学校・大学向けで現実的なのは、キャリアセンターの外部相談員や非常勤の公募です。大学や企業の仕事は年度や予算の周期で動くため、声がかかってから準備したのでは間に合いません。無料の段を見せられる状態を先に作っておくことが、そのまま提案書の代わりになります。
そして、資格にかけたお金から目をそらさないことです。取得までに数十万円、登録後も5年ごとの更新があり、原則として知識8時間以上・技能30時間以上の更新講習が必要です。技能検定合格などによる免除もあるため、更新前に公式の登録更新案内を確認してください。維持費を払い続ける焦りは、月2万円でも有料の仕事を立ち上げたときから消え始めます。回収は気合いではなく、段差の設計で進めるものです。
申し込みゼロだった高瀬さんと、役職を上がった紹介の連鎖

起業18フォーラムで出会った高瀬さん(仮名・40代)は、産業機械メーカーの人事部で採用を15年担当してきた方です。3年前にキャリアコンサルタントの資格を取り、週末に有料のキャリア相談を告知しました。ところが、申し込みは半年たってもゼロでした。
無料なら知人が話を聞きに来てくれるのに、値段をつけた瞬間に誰もいなくなる。「資格より実績のある人が選ばれているのだろう」と考えた高瀬さんは、別の民間資格の資料を取り寄せかけていたそうです。
流れが変わったのは、起業18の勉強会で「誰のどの場面を助けるのか」を繰り返し問われたあとです。高瀬さんが見返したのは、本業で毎日扱っている自社と同業他社の求人票でした。応募者が面接で落ちる理由の多くは経歴の不足ではなく、経歴を語る言葉が採用側の困りごととずれていること。それなら、面接で会社側が何を見ているかを知り尽くした自分の出番だと気づいたのです。
商品を「キャリア相談」から「中途採用の面接に特化した模擬面接」へ絞り、求人票の読み方メモから始まる無料の段と、本番形式の有料の段差を作り直しました。2年目に入るころには、有料の申し込みが途切れずに続くようになりました。
変化の質が見えたのは3年目です。模擬面接を受けた30代の方が転職を決めたあと、その方の新しい職場の上司から「部下との面談を立て直したい」と相談が届きました。さらにその上司が人事部に掛け合い、管理職向けの面談研修を半日枠で年2回任されることになりました。
紹介が同僚への横並びではなく、受講者から上司、そして人事部へと役職を上がっていったことが、高瀬さんにとって何よりの変化でした。個人の模擬面接と研修を合わせて、現在は月8万円前後の収入が続いています。
商品のもとになったのは、特別な営業ではなく、毎日の仕事の中で素通りしていた求人票でした。まずは、あなたが助けたい人が読んでいる求人票を10件、応募する側の目で読み直すことから始めてみてください。誰を助けるかが決まれば、無料の15段は自然に埋まっていきます。
よくある質問

Q.実務経験がほとんどないまま資格を取りました。何から始めればいいですか?
無料の段から始めてください。周囲で転職や面接を控えている方に練習台をお願いし、20分のミニ面談を重ねると、実例と感想が同時にたまっていきます。許可を得て感想を記録すれば、それが最初の実績になります。資格を増やす前に、相談の回数を増やすほうが先です。
Q.企業向けと個人向け、どちらから始めるのがいいですか?
多くの場合、個人向けが先です。今日から小さく試せて、商品の精度を上げる練習になるからです。ただし、いずれ企業研修を目指すなら、個人向けの仕事の中で「採用する側・育てる側の困りごと」に触れた記録を残しておくと、あとで橋になります。高瀬さんの研修の仕事も、個人の受講者からの縦の紹介で生まれました。
Q.5年ごとの更新講習費が重く感じます。資格を維持する価値はありますか?
維持費だけを見れば、重い出費です。キャリアコンサルタントは名称独占の国家資格なので、登録をやめれば、この肩書きは名乗れなくなります。判断の基準は「資格があるから仕事が来るか」ではなく、「いま作っている商品に、この肩書きが信用として効いているか」です。有料の段がひとつでも動き始めていれば、更新費は回収の射程に入ります。
講座で学んだ理論と独立後の毎日のあいだには、教科書に載らない運営の細部があります。独立して活動している先輩キャリアコンサルタントをひとり探し、セミナーや勉強会の運営の手伝いか見学をさせてもらえないか、申し込んでみてください。受付の動かし方ひとつにも、相談が続く人の工夫が詰まっています。
資格を入口にした起業のつまずきは、キャリアコンサルタントに限った話ではありません。コーチング資格で同じ壁にぶつかった方への答えは、こちらの記事でも扱っています。

「資格だけで食べていけるのか」と立ち止まれる慎重さは、相談の仕事ではそのまま適性になります。目の前のひとりの困りごとに丁寧に向き合うところから、あなたの16段目は始まります。
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