阿蘇への移住起業|農と観光の町で仕事を作る進め方と支援制度

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

起業や移住の支援制度は、年度が替わるたびに中身が変わります。熊本県の起業向け補助金も、直近の年度では募集が年に一度、約1ヶ月の期間に限られていました。「動くときが来たら調べよう」と置いておくと、いちばん使いたい年に取り逃しかねません。

阿蘇のカルデラと草原に惹かれて、「いつかこの土地で暮らしたい」と考え始めた方なら、なおさらです。憧れははっきりしているのに、収入の柱をどう描けばいいかが分からない。移住をともなう起業の相談を26年の支援現場で受けてきて、最初に出てくるのはほとんどこの悩みでした。

この記事では、阿蘇市の数字と支援制度を先に整理したうえで、通うところから始めて高原に根を下ろしていく、四つのフェーズの進め方をご紹介します。

ポイント 阿蘇はどんな町か:人口の300倍近い人が訪れる高原の町

人口約2.4万人に年間688万人が訪れる高原の町

阿蘇

カルデラの中に暮らしがある、世界でも珍しい町

阿蘇市は熊本県の北東部、阿蘇カルデラの北側に広がる町です。人口は約2.4万人。総務省の令和2年国勢調査では24,930人で、ゆるやかな減少が続いています。

一方で、人の流れは桁違いです。阿蘇市の観光入込客数は令和6年に約688万人と、暮らす人の300倍近い規模になっています。宿泊客数は約62万人で、そのうち外国人宿泊客数は約22万人と過去最高になりました。外の財布が一年を通じて流れ込んでくる。商売の土台として、これは大きな強みです。

アクセスも整い直しています。阿蘇くまもと空港から阿蘇駅前までは車で約40分。2016年の熊本地震で一部不通になっていたJR豊肥本線も、2020年8月に全線で運転を再開し、熊本と阿蘇を結ぶ特急が走っています。

そして阿蘇の固有性は、なんといっても草原です。カルデラに広がる草原は約2万ヘクタールと日本一の広さで、野焼きとあか牛の放牧によって千年単位で受け継がれてきました。この草原と農畜産、温泉と観光が、町の産業の土台になっています。

ポイント 支援制度の現在地:補助金と移住支援金、使う順番

上限200万円の補助金と移住支援金を使う順番

阿蘇

熊本県の地域課題解決型起業支援補助金

熊本県には、地域の課題解決につながる起業を対象にした補助金があります。窓口は公益財団法人くまもと産業支援財団で、サービスの不足といった地域の困りごとを事業で解決し、その収益で自走していく計画が対象です。

補助の上限は200万円、補助率は対象経費の2分の1以内です。人件費や店舗の借料、広報費など、立ち上げ期の主要な経費が幅広く含まれています。

阿蘇のような中山間の町では、買い物、移動、観光の人手、農産物の販路と、困りごとがすでに言葉になっています。題材には事欠きません。

気をつけたいのは募集期間です。令和7年度の募集は7月中旬から8月中旬までの約1ヶ月だけで、条件も年度ごとに見直されます。動く年が決まったら、財団の公募情報を早めに確かめておいてください。

申請には事業計画が要ります。阿蘇市商工会が創業前の経営相談や計画づくりを支援しているので、書類の段階で頼れる相手は地元にいます。

移住支援金は「移住が決まった人」の制度

熊本県の令和8年度移住支援事業では、東京圏からの移住で世帯100万円・単身60万円が支給され、対象市町村では18歳未満の子ども1人につき最大100万円が加算されます。阿蘇市も同制度の対象に含まれています。

ただし、これは移住という結論が出た人が受け取るお金です。制度を先に置いて日程を組むと、肝心の「何で食べていくか」が置き去りになります。

  • 地域課題解決型起業支援補助金:
    上限200万円・補助率2分の1以内(窓口:くまもと産業支援財団)
  • 熊本県の移住支援事業:
    東京圏からの移住が要件・対象市町村では子ども加算あり・年度ごとに内容見直し
  • 阿蘇市商工会:
    創業前の経営相談・事業計画づくりの支援(阿蘇市内牧)

補助金も支援金も、売るものと相手が決まってから使う道具と考えて、まず方向性づくりに手を付けてください。その手順どおりに進めれば、制度は強い味方になってくれます。

ポイント 通う、試す、二拠点、定着:阿蘇起業の四つのフェーズ

通う→試す→二拠点→定着の4フェーズ設計

阿蘇

フェーズ0:探すものを決めて通う

いきなり移住でも、いきなり開業でもありません。最初のフェーズは、目的を持って阿蘇に通うことです。観光ではなく、同じ場所を見続ける定点観測として通います。

拙著『起業神100則』では、「赤いものを探せ」という言葉を紹介しています。赤いものを探そうと決めた瞬間から、街の中の赤いものが急に目に入り始める。人の認知はそういうふうにできていて、地域の需要もまったく同じです。何を探すかを先に決めて通った人から、阿蘇の需要は見え始めます。

直売所の棚で何が早く売り切れるか。宿や牧場の貼り紙にどんな人手の募集が出ているか。見るものを決めて3回通えば、観光で10回来るより多くのことが分かります。

フェーズ1から3:試して、通い続けて、根を下ろす

フェーズ1は小さく試す段階です。休みに合わせたマルシェへの単発出店、阿蘇の産品を扱う小さなオンライン販売、地域の事業者の発信の手伝い。撤退できるサイズで始めるのが鉄則になります。

  • フェーズ0(通う):
    探すものを決めた定点観測・直売所と道の駅の観察
  • フェーズ1(試す):
    単発出店や小さなオンライン販売など撤退できるサイズの実験
  • フェーズ2(二拠点):
    月の何日かを阿蘇で過ごす、仕入れ先や売り場との関係づくり
  • フェーズ3(定着):
    移住支援金や補助金を使い、住まいと事業の拠点を固める段階

フェーズ2では、関係人口と呼ばれる「通いながら関わる」立ち位置のまま事業を回します。顔の見える取引先が増えてきたら、フェーズ3で初めて住まいの話に進む。フェーズを飛ばした人ほど撤退も早いというのが、移住をともなう起業に共通する法則です。

ポイント 消えた店の棚を引き受ける:直売所の空白から生まれた定期便

需要の空白に気づき定期便で続く形にした例

阿蘇

頼られていた味が消えると、需要だけが残る

阿蘇くらいの規模の町では、同じ条件の地方で繰り返し起きてきた展開を押さえるほうが、判断の材料になります。県外から阿蘇に通い始めた40代会社員によくある流れで考えてみましょう。

通ううちに直売所の常連になると、棚の変化に気づくようになります。長く人気だった加工品の作り手が高齢を理由に出品をやめ、その一角だけぽっかり空いた。買いに来た人が残念そうに帰っていく。頼られていた味が消えても、需要はそのまま残ります。この空白に気づけるのは、棚を見続けてきた人だけです。

最初の挑戦は勢い任せでした。似た商品を自分なりに作ってイベントで単発販売してみたものの、その場では売れても翌月にはまた振り出しに戻る。続く形になっていなかったわけです。

起業18フォーラムの勉強会で直したのは、「売り切りを定期に変える」という一点でした。地元の生産者と組み、月1回届く加工品セットを少量の定期便として再出発させたのです。

手応えは、売上の爆発ではなく続き方に表れました。半年たって定期便をやめた人は2割ほど。リピートの注文が翌月の段取りを先に決めてくれるので、季節の波が大きい阿蘇でも見通しが立つようになりました。

こうした始め方は、特別な人だけのものではありません。日本政策金融公庫総合研究所の2025年度新規開業実態調査でも、開業時の年齢は40歳代が36.9%と最も多く、30歳代の28.0%が続きます。準備に時間をかけられる世代こそ、通いながら空白を探す進め方に向いています。

ポイント よくある質問

農業未経験や閑散期など阿蘇起業のよくある疑問

よくある質問

農業の経験がなくても、阿蘇で起業できますか?

できます。未経験から農業そのものに参入するより、加工、販路づくり、発信、体験プログラムといった農畜産の周辺にある仕事のほうが入りやすい領域です。新規就農には農地や研修など別の制度と時間が必要になるため、まず周辺で実績を作り、関心が深まった段階で就農支援の窓口に相談する順番が現実的です。

観光の閑散期が不安です。季節の波はどう乗り越えますか?

阿蘇の観光には季節の波があります。だからこそ、来訪者だけに頼らない売り方を最初から設計してください。定期便やオンライン販売のように町の外のお客様と続く接点を持つ事業は、冬場の谷を埋めてくれます。観光向けと通年向け、2つの柱を小さく持つ形が現実的です。

移住しないと始められませんか?

移住は最後のフェーズで構いません。通いから始めて、二拠点で事業を回し、手応えが出てから住まいを移す。移住支援金などの制度も、移住の決断が固まった段階で使うものです。順番を守るほど、撤退の不安は小さくなっていきます。

ポイント 阿蘇で食べていく線を、今日から引き始めるために

方向性を固めてから窓口と現地を回る段取り

阿蘇

順番は「方向性、現地、それから制度」

阿蘇での起業は、制度から入ると迷子になります。自分は何を売り、誰の困りごとを引き受けるのか。先にその方向性を固めてください。起業18フォーラムの勉強会では、会社の外で最初の収入を作るまでの設計を扱っています。

方向性が見えてきたら、阿蘇市の移住相談の窓口や商工会、県の補助金を順に当たっていきます。行き先の決まった人にとって、制度はよく働く道具です。

移住起業と在職起業はどちらが先? 判断軸はどこに置けばいいですか?
● 質問 都心の通勤に疲れて地方移住を考え始めました。移住先で起業する人の体験談記事をたくさん読みましたが、い

これまで6万人を超える方の起業準備に伴走してきて感じるのは、最初の一歩が小さい人ほど長く続くということです。阿蘇なら、その一歩はもう決まっています。次の休みに丸一日かけて、道の駅阿蘇と市内の直売所を回り、棚の並びと値札、お客さんの動きを自分の目で確かめてみてください。草原の見える売り場には、まだ誰も引き受けていない困りごとが並んでいます。


さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

起業アイデア診断
【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!

【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!

ポイント この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます!