記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「いつかは丹後に戻りたい。でも、戻って何の仕事をするのか」。京丹後の実家を思い出すたびに、この独り言を繰り返してきた方は多いはずです。親の年齢、空き家になりそうな家、盆と正月にしか会えない友人。気になることは増えていくのに、肝心の生計の道筋だけが描けません。
26年あまり起業準備の相談を受けてきた経験から言うと、Uターンを考える人に足りないのはやる気でも資金でもなく、「地元で何を売るか」という一点の整理です。そこさえ固まれば、戻る話は急に具体的になります。
この記事では、京丹後市のいまの姿と支援制度を押さえたうえで、実家や古民家、丹後ちりめんといった手元の資産から商売の種を見つける考え方を順に整理していきます。
京丹後はどんな町か:ちりめんと漁港と古民家の半島

人口48,615人。6つの町が集まった日本海側の市
京丹後市は京都府の最北部、丹後半島に位置する市です。2004年に峰山町・大宮町・網野町・丹後町・弥栄町・久美浜町の6町が合併して生まれました。市の住民基本台帳によると、令和8年5月末の人口は48,615人です。
同じ京都府でも、京都市とは経済圏がまったく別です。市内には間人ガニで知られる間人漁港があり、久美浜湾では牡蠣の養殖が続いています。砂丘地帯のメロンや梨など農業も盛んで、海と畑と織物が一つの市の中に同居しています。
アクセスは、京都駅から特急はしだてで天橋立駅まで約2時間前後。一部の便はそのまま京都丹後鉄道に直通し、市内の京丹後大宮駅・峰山駅・網野駅まで乗り換えなしで着きます。日帰りは少し忙しく、通うなら1泊が現実的な距離です。
920万反から数十分の一へ。それでも技術と建物は残っている
この町を語るうえで欠かせないのが、丹後ちりめんの存在です。丹後織物工業組合の記録では、白生地の生産量は1973年に史上最高の920万反を記録しました。その後、着物市場の縮小とともに、生産量は当時の数十分の一の規模まで減っています。
数字だけ見れば衰退産業に映るでしょう。ただ、Uターン起業の目で見ると景色が変わります。織りの技術を持つ人、使われなくなった工場や納屋、ちりめん街道の古い町並み。これらは新しく作ろうとすれば何十年もかかる、この土地にしかない資産だからです。
移住とUターン起業に使える京丹後市の支援制度

東京圏からの移住なら世帯100万円・単身60万円
京丹後市には、東京圏から移り住む人向けの移住支援事業補助金があります。支給額は2人以上の世帯で100万円、単身で60万円です。
対象になるのは、東京23区に住むか23区へ通勤していた人が市内に移住し、就業・テレワーク・起業のいずれかの要件を満たす場合です。起業で申請するなら、京都府の起業支援事業の交付決定を受けていることが前提になるなど、区分ごとに条件が細かく決まっています。
金額も要件も年度ごとに見直されるため、申請を考える段階で必ず市の窓口で最新の内容を確かめてください。古い情報のまま資金計画を立てるのがいちばん危険です。
- 移住支援事業補助金:
世帯100万円・単身60万円。東京圏からの移住と就業・テレワーク・起業の要件あり - 創業の相談窓口:
京丹後市商工会、京都産業21北部支援センター、丹後地域地場産業振興センターなど - 京都府北部の移住情報:
ポータルサイト「たんたんターン」。京丹後市を含む北部7市町の連携で運営
窓口は揃っています。ただし、使う順番があります。補助金も相談窓口も、売るものが決まった人にとって初めて力を発揮する道具だからです。何をやるかが白紙のまま相談に行っても、話は具体策の手前で止まってしまいます。
窓口を巡る前に、まず「自分は丹後で何を売るか」の整理に時間を使ってください。整理が済んだ人ほど、同じ窓口から引き出せる情報は濃くなります。
何を売るか:アイデアの切り口4つを京丹後に当てはめる

「ないもの探し」ではなく「あるもの起点」で考える
Uターン起業の相談で最初に出てくるのが、「丹後には仕事がない」という言葉です。求人を探す発想ならそのとおりかもしれません。ただ、商売の種を探す発想に切り替えると、見えるものが変わってきます。
拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』では、起業アイデアの切り口として「不便・不足」「趣味・嗜好」「ポータブルスキル・専門知識」「資産活用」の4つを紹介しています。この4つを京丹後に当てはめると、空欄が次々に埋まっていきます。
- 不便・不足:
車を手放した親世代の送迎や買い物代行、増え続ける空き家の見回り・管理 - 趣味・嗜好:
釣り・サーフィン・カニの食べ歩きなど、半島に通う人向けの案内や情報発信 - ポータブルスキル:
都市部で培った経理・ウェブ・営業の技能を地元の事業者に提供する仕事 - 資産活用:
実家・納屋・古民家・織物の端切れや道具など、すでに手元にあるものを生かす商売
4つのうち、Uターン組がいちばん力を発揮しやすいのは資産活用です。よそから来た人がゼロから物件を借りて始める商売と違い、実家や古民家を持つUターン組は、最初の固定費を限りなく抑えて試せます。
たとえば、空いた納屋を片付けて週末だけの教室にする。ちりめんの端切れで小物づくりの体験会を開く。久美浜の牡蠣や間人の魚を、都会の知人向けに案内付きで届ける。どれも大きな投資は要りません。
いきなり移住しない。「通うUターン」から始める
もうひとつ大事なのは、始め方の順番です。いまの仕事と収入を保ったまま、月1回の帰省を「商売の種を探す日」に変えてみてください。盆と正月だけだった帰省を少し増やし、関係人口として町と関わりながら小さく試すのです。移住と開業を同時にやると、生活費の不安と事業の不安が同じ時期に重なり、判断を誤りやすくなります。戻る日を決めるのは、種が育ってからで遅くありません。
総務省統計局の住民基本台帳人口移動報告では、東京圏への転入超過がいまも続いています。人の流れと逆向きに戻るからこそ、勢いではなく順番を味方につけてください。
Uターン1年目の実際の足取り

帰省した夜の同窓会が、止まっていた構想を動かす
起業18フォーラムの相談でも、丹後のような土地に戻る人たちには共通した進み方があります。丹後にUターンした40代のケースを例に、よくある流れを追ってみます。
始まりは、帰省した夜の同窓会です。地元に残った同級生から「親父の機屋、今年で畳むらしい」「あの家もずっと空き家のままや」という話を聞くうちに、しまい込んでいた「いつか戻る」という構想が急に現実味を帯びてきます。
ところが、最初の動き方はたいてい空回りします。都会の感覚のままゲストハウスや週末カフェの事業計画を立て、改修費の見積もりを取った段階で数百万円の壁に突き当たり、そこで止まってしまうのです。
計画を小さく縮めた人から動き出す
このケースでは、起業18フォーラムの勉強会で「すでにあるものから始める」という資産活用の考え方に触れたことで、計画が一気に現実的になりました。改修を伴う宿はいったん横に置き、実家の納屋を片付けて、ちりめんの端切れを使った小物づくりの体験講座を帰省に合わせて開く形に縮めました。
派手な売上の話にはなりません。それでも帰省のたびに数組ずつ参加が積み重なり、2年目には参加者が延べ50組を超え、京都市内の手芸教室から出張講座の相談が届くようになりました。積み上がった組数が町の人の信頼に変わり、その信頼が次の依頼を連れてきます。Uターン起業でよくあるのは、手応えがこうした形で現れるパターンです。
地元に戻ったあと、顧客や情報の少なさにどう向き合うか。同じ悩みには、こちらの記事で詳しく答えています。
よくある質問

Q.地元出身ではありませんが、京丹後で起業できますか?
できます。市の創業相談窓口や移住ポータル「たんたんターン」は、IターンでもUターンでも変わらず使えます。ただ、縁のない土地では需要の見極めに時間がかかります。まず通って人と知り合う期間を取ってから判断するほうが安全です。
Q.移住支援金は起業でも対象になりますか?
対象になり得ます。京丹後市の移住支援事業補助金には移住先起業の区分があり、京都府の起業支援事業の交付決定から1年以内であることなどが要件です。年度によって条件が変わるため、計画の段階で市の商工振興課に確認してください。
Q.実家が空き家になっています。すぐに店や宿にできますか?
建物の状態と用途によって、必要な手続きや費用は大きく変わります。宿泊や飲食を伴う場合は許可も必要です。最初から大きく改修するのではなく、片付けた一室での小さな教室や展示から試し、手応えを見てから投資を判断してください。
京丹後で一歩を踏み出す順番

戻る口実は、もう手元にある
京丹後での起業は、打ち手の順序を整えれば無謀な賭けではありません。先に「丹後で何を売るか」を整理し、暮らしを移すのはそのあとです。起業18フォーラムでは、この最初の整理を小さな実験とセットで進めるやり方を扱っています。方向が見えてきたら、市の窓口や移住支援金を道具として使ってください。
そして、机の上の整理がひと区切りついたら、次の帰省で一人に会いに行ってみてください。丹後に先に戻って店や宿、工房を開いた先輩です。「最初の半年はどうでしたか」と一言たずねるだけで、検索では出てこない京丹後の商売の実情を聞かせてもらえます。

帰省のたびに目に入っていた空き家や、車を手放した親世代の買い物の不便。それが気になって仕方がないのは、あなたがこの町の外と中を両方知っているからです。地元の小さな需要に気づけたなら、それはもう、京丹後に縁のある人にしか見えない商機をひとつ見つけたということです。次に帰る日が、その答え合わせの日になります。
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