葉山で起業するには? 通勤を続けたまま海辺の町で小さく始める手順

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

朝、バスで駅へ出て、横須賀線か京急で都心へ。夜、暗くなった海沿いの道を戻ってくる。仕事は回っているし、暮らしに大きな不満があるわけでもない。それでも「葉山に住んでいるのに、平日の自分は東京にいるだけだ」と感じる瞬間はないでしょうか。

その感覚は、ぜいたくな悩みではありません。暮らす場所と働く場所が離れ、毎日の大半が移動と勤め先で終わることへの、ごく自然な反応です。同じ違和感からこの先10年の身の置き方を考え始めた方の起業準備を、私は数多く見てきました。

この記事では、いまの通勤生活を手放さずに、葉山という町で小さな仕事を立ち上げていく手順を整理します。鍵になるのは、町の創業支援を使う順番と、朝晩30分の時間設計です。

ポイント 通勤の町・葉山の輪郭:駅のない海辺に残る暮らしの商圏

鉄道の駅がない海辺の町に息づく別荘文化と生活圏

葉山

人口約3万人、鉄道の駅がない町

葉山町は三浦半島の付け根、相模湾に面した町です。北は逗子市、東と南は横須賀市に接しています。先に町の規模を押さえておきます。町の公表する人口統計では、2026年5月1日現在の人口は31,282人、世帯数は14,597世帯です。顔の見える商圏として、ちょうど手の届く大きさです。

特徴的なのは、町内に鉄道の駅が一つもないことです。移動の軸はバスで、最寄りはJR横須賀線の逗子駅と、京急逗子線の逗子・葉山駅になります。その不便さの裏返しとして大型の商業開発が進みにくく、海と山に挟まれた生活圏が昔の姿のまま残ってきました。

別荘文化が生んだ「二層のお客様」

明治の頃から御用邸と別荘の町として知られてきた葉山には、週末や夏だけ滞在する人と、町で日常を送る住民という二層のお客様がいます。観光地のような人の波はなくても、暮らしの質にお金を使う層が確かにいる町です。

だからこそ、葉山での起業は「広く集客する」より「半径3キロの困りごとに応える」発想が向いています。都心の大きな市場で戦う必要はありません。徒歩と自転車で回れる範囲に、最初のお客様がいます。

ポイント 葉山町の創業支援は「あとで効く」道具

方向性が固まってから効く町の創業支援の中身

葉山

特定創業支援の証明書で受けられる優遇

葉山町は国の制度に基づく創業支援事業計画を持ち、町の特定創業支援事業として、葉山町商工会による「創業支援特別講習会」を位置づけています。経営・財務・人材育成・販路開拓を続けて学ぶ講習で、修了すると町から証明書の交付を受けられます。

証明書があると、株式会社などを設立する際の登録免許税が半分(税率0.7%が0.35%)に軽減されます。創業関連の信用保証の特例や、日本政策金融公庫の融資利率の引き下げも対象になります。

  • 創業支援特別講習会:
    葉山町商工会が実施する特定創業支援の講習(開催形式・日程は年度ごとに変動)
  • 証明書のメリット:
    登録免許税の軽減・創業関連保証の特例・日本政策金融公庫の融資利率引き下げなど
  • 身近な相談先:
    葉山町産業振興課・葉山町商工会のほか、何度でも無料で使える神奈川県よろず支援拠点(横浜)

講習会の時期や形式は年度で変わるため、最新の情報は町の窓口で確かめてください。そして、それ以上に大事なのは使う順番です。何を売るかが見えていない段階で窓口に行っても、聞きたいことが絞りきれず、相談は空回りしてしまいます。

支援制度は先に暗記するものではなく、事業の方向性を固めたあとに取りに行く道具だと覚えておいてください。段取りを踏めば、小さな町の制度は心強い味方になります。

ポイント 一日密着:通勤を続けたまま回す葉山の朝と夜

通勤を続けたまま回す朝と夜の小さな仕事時間

葉山

朝は「作る」、夜は「届ける」に分ける

駅まで遠い町に住む人の起業準備は、まとまった時間を探そうとすると止まります。都心への通勤を抱えた葉山の暮らしなら、なおさらです。

平日は無理だからと週末にまとめて進めようとすると、家の予定や疲れに流され、気づけば何週間も手つかずになりがちです。そうなる前に、進め方そのものを変えてしまいましょう。

そこで使えるのが、朝と夜に小さく分ける方法です。拙著『会社を辞めずに朝晩30分からはじめる起業』では、朝の30分と夜の30分、合わせて1日1時間を基本単位にした日次ルーティンの設計を紹介しています。

大切なのは時間の長さではなく、毎日同じ位置に同じ種類の作業を置いて、考えなくても手が動く状態を作ることです。朝は頭が新しいうちに「作る」作業を、夜は「振り返って届ける」作業を置くと、無理なく回り始めます。

葉山の一日に当てはめるとこうなる
  • 出勤前の30分:
    商品づくりや文章づくりなど、頭が新しいうちに済ませる「作る」作業
  • 通勤の往復:
    スマホでの調べものと、車窓や町で見かけた困りごとのメモ
  • 夜の30分:
    朝作ったものを整えて発信し、届いた反応に返事をする時間

通勤そのものを「使えない時間」と切り捨てないのがコツです。バスと電車の往復は、行きは調べもの、帰りは一日の気づきの整理と役割を分ければ、立派な仕事時間になります。長い通勤は、見方を変えれば毎日確保された学びの時間でもあります。

ポイント 半径3キロの需要は、掲示板の小さな反応から見つかる

半径3キロの困りごとが仕事に変わる需要の見つけ方

葉山

いきなり広く構えると、たいてい空振りする

湘南エリアから都心の会社に通う40代の方のケースを、この規模の町でよくある進み方として紹介します。出だしは見よう見まねでした。勤め先で培った経験をもとに都心向けのオンライン講座を立ち上げようとしたものの、構想ばかりが膨らみ、申し込みはゼロのままだったそうです。

住んでいる町を素通りして、いきなり顔の見えない大きな市場に挑むと、反応がないまま気力だけが削られていきます。真面目な人ほど、この入り口でつまずきます。

流れが変わったのは、地域の掲示板に「写真撮影やパソコンの困りごと、お手伝いします」と小さな案内を出してみたときでした。大きな宣伝ではなく、町内に向けたささやかな一枚です。

返ってきた問い合わせは、そのほとんどが自転車で行ける半径3キロの範囲からでした。都心に向けて発信していた頃には見えなかった需要が、足元に転がっていたわけです。

週末の手伝いが「名指しの依頼」に変わるとき

その後、この方は起業18フォーラムの個別相談で「誰のどの困りごとに応えるか」を整理し直し、メニューを町内の小さな店の発信の手伝いに絞り込みました。価格も内容も、相手の顔が見える前提で組み直しています。

変化は金額より先に、頼まれ方に表れました。最初の2〜3ヶ月は知人づての単発の手伝いが続きましたが、半年ほどたつと、海辺の店から「次の季節の案内もお願いしたい」と名指しで声がかかるようになりました。誰かの代わりではなく、その人に頼みたいと言われる状態です。ここまでの流れは、同じ規模の町では典型的な進み方です。そして葉山では、この「名指しされる関係」が広告より強く効きます。

  • 観光頼みの一点張り:
    夏の人出だけを当てにして、季節が終わると止まってしまう商売設計
  • 都心市場への直行:
    足元の生活圏を飛ばし、顔の見えない大きな市場で消耗する進め方
  • 値づけの遠慮:
    近所だからと無料や格安で受け続け、続けるほど苦しくなる形

こうしたつまずきは、能力ではなく順番の問題です。足元の需要を確かめてから広げる。この一点を守るだけで、海辺の町の小さな事業はぐっと折れにくくなります。

ポイント 葉山で始めるために、学ぶ順番と最初の一歩

学ぶ順番を整えてから町の窓口と人の輪に近づく道筋

葉山

方向性が先、制度と窓口はあと

進む順番を整理します。先に固めるのは、自分は何で食べていくのか、どんな相手のどんな困りごとに応えるのかという方向性です。起業18フォーラムでは、いまの通勤生活を変えないまま、この土台を作っていく学び方を扱っています。

方向が見えてきたら、葉山町商工会の講習会や産業振興課の窓口、神奈川県よろず支援拠点を具体的な相談先として使っていきます。順番が逆になると、せっかくの制度が絵に描いた餅になってしまいます。

その手前の小さな一歩としておすすめしたいのが、人の輪に触れてみることです。葉山や隣の逗子で開かれる創業者の交流会やコワーキングスペースのイベントを探して、まずは見学だけ参加してみてください。同じ町で先に始めた人の話は、どんな教材より具体的です。

電車通勤の時間を起業準備に活用する具体的な方法を教えてください
通勤時間が往復90分あります。この時間を起業準備に使いたいのですが、電車の中でスマートフォンだけでできる具体的

電車やバスの時間を準備に変える具体的なやり方は、上の記事でも紹介しています。通勤距離の長さを嘆くより、その時間を設計に組み込んでしまうほうが、葉山の暮らしは早く変わり始めます。

ポイント よくある質問

葉山での小さな開業前によくある3つの疑問

よくある質問

葉山に住んでいなくても始められますか?

始められます。海の近くで仕事を持ちたいという相談は、都心に通う30代から50代の方に特に多いのですが、皆さんにまず通うことから勧めています。週末に町を歩き、掲示板や店先の張り紙から困りごとを観察するだけでも、商圏の感触はつかめます。住まいの決断は、需要の手応えを確かめたあとからでも遅くありません。

売るものが決まっていない段階で、町の窓口に相談してもいいですか?

相談自体は断られません。ただ、窓口が本当に力を発揮するのは、事業の輪郭が見えてからです。先に「誰のどんな困りごとに応えるか」を自分の言葉にして、講習会や証明書の制度は方向が固まった段階で活用すると、同じ相談でも得られるものが大きく変わります。

朝晩30分だけで、本当に形になりますか?

なります。ただし、30分でできる大きさまで作業を区切っておくことが条件です。今夜は少し早く休んで、明日の朝、起きてすぐの30分をまず確保するところから試してみてください。続けるための仕組みづくりこそが、最初の作品になります。

通勤に費やしてきた時間と、海辺の町を選んだ暮らし。この2つは、これからの準備にとってどちらも資産です。明日の朝、いつものバスで駅へ向かう海沿いの道で、車窓の景色に「ここに仕事の種はないか」という視点をひとつ足してみてください。同じ景色が少し違って見えはじめたら、その時点で準備はもう動き出しています。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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