50代後半で役職定年、収入が減った分を自分で稼ぐ準備はどこから手をつける?

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

メーカーで部長をしていましたが、先月から役職定年で管理職を外れ、給料が二割ほど下がりました。50代も後半に入り、定年まではあと数年です。

下がった分を会社の外で自分の力で稼げるようになりたいと思う一方で、この年齢から新しいことを仕込んで間に合うのか、正直自信がありません。今から何を準備しておけばいいのでしょうか?

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● 回答

「この年齢からでは遅い」。そう思って焦る方こそ、実は準備に向いた時間を持っています。役職定年で時間に余白ができた今の数年は、これまで会社の中に閉じていたあなたの信用を、外で使える形に組み替えるのにちょうどいい時期です。間に合うかどうかではなく、何から手をつけるかの問題だと、私は受け止めています。

給料が下がったこと以上に、長く積み上げてきた立場から外れた喪失感のほうがこたえている。その感覚も、よく分かります。まずはその気持ちごと、順番に整理していきますね。

「もう遅い」の中身を、いったん分けて見る

「この年齢からでは遅い」という言葉には、本当は二つの違うものが混ざっています。一つは体力や時間といった実際の制約。もう一つは、若い人に比べて出遅れているという気持ちのほうの焦りです。

このうち動かせるのは前者だけで、後者はたいてい思い込みです。なぜなら、起業準備で本当に効いてくるのは新しいスキルの量ではなく、これまで誰とどんな仕事をしてきたかという信用の蓄積だからです。その蓄積こそ、50代後半のあなたが20代に絶対に負けない部分です

実際、数字を見ても50代後半から先は決して退場の時期ではありません。総務省統計局が2025年9月に公表した「統計からみた我が国の高齢者」(統計トピックスNo.146)では、2024年の65歳以上の就業者数は930万人にのぼり、就業者全体に占める割合は13.7%と、いずれも過去最高を更新しました。65歳を過ぎても働き続ける人がこれだけ増えている中で、定年まで数年あるあなたが「もう遅い」と引く理由は、どこにもありません。

役職定年は、信用を外で使う形に組み替える合図

役職定年で管理職を外れると、肩書きという分かりやすい看板が一つ消えます。ここで多くの方が「自分の価値も下がった」と感じてしまうのですが、実際に下がったのは社内での役割であって、あなた自身が積んできた経験ではありません。

私は拙著『起業神100則』で、起業準備のいちばんの土台は信用だと紹介しています。会社にいれば当たり前に与えられていた信用が、外に出た瞬間には一切ない。だからこそ、肩書きとは別に「この人になら頼める」と思ってもらえる信用を、自分の名前で積み直す必要があるのです。

そして信用は、地味な積み重ねでしか高まりません。一つのことに粘り強く取り組む。自分のしてきた仕事を素直に開いて見せる。たくさんの人と会って関わりを深める。派手な近道はなく、これ以外に道はありません。役職定年で生まれた時間の余白は、まさにこの信用の積み直しに充てるためにあります

役職定年後に「価値が下がった」と勘違いしやすいもの

  • 肩書き:
    社内の役割は外れるが、その役割で身につけた判断力は手元に残る
  • 人脈:
    管理職としての付き合いは減るが、信頼してくれた個人とのつながりは消えない
  • 経験:
    現場で積んだ知見は、年齢が上がるほど若い人にない説得力になる

つまり、役職定年で本当に失ったものは思っているより少ないのです。失ったのは看板であって、中身ではありません。

定年までの数年で、具体的に何を仕込むか

では、残りの数年を何に使うか。やることを欲張らず、三つに絞ってお話しします。

一つ目は、これまでの仕事の棚卸しです。部長として何を判断し、どんな相談を持ち込まれてきたか。社内では当たり前だった動きの中に、外の人がお金を払ってでも欲しいものが必ず混じっています。二つ目は、その棚卸しで見えたものを、社外の誰か一人に小さく試すこと。三つ目が、その手応えをもとに、自分の名前で続けられる形へ少しずつ整えていくことです。

ここで一つ、現実の数字も添えておきます。役職定年は決してあなただけが直面している特殊な事情ではありません。人事院が令和5年(2023年)に実施・公表した「民間企業の勤務条件制度等調査」では、事務・技術関係職種の従業員がいる民間企業のうち役職定年制を設けているのは16.7%で、従業員500人以上の企業に限れば27.6%にのぼります。同じ立場に置かれた人は大勢いて、そのうち何人もが定年までの時間を準備に変えています。だからこそ、ここで動き出せるかどうかが分かれ目になります。

定年までの数年で仕込む三つの手順

  • 棚卸し:
    部長として判断してきたこと、相談されてきたことを書き出して言葉にする
  • 小さく試す:
    棚卸しで見えた得意を、社外の知り合い一人に無料か少額で提供してみる
  • 名前で整える:
    反応のよかったものを、肩書きなしの自分の名前で続けられる形にする

三つとも、今の会社に勤めながら、空いた夜や週末に始められることばかりです。大きく構える必要はありません。

及川さんが、名指しで頼まれるようになるまで

起業18フォーラムの会員さんで、及川さんという50代後半の方がいました。メーカーで長く部長を務めたあと、役職定年で管理職を外れ、給料が下がったタイミングで相談に来られた方です。最初は「この年で何ができるのか」と、かなり気持ちが沈んでいらっしゃいました。

及川さんは当初、流行りのオンライン講座をいくつも申し込み、新しいスキルを一から身につけようと焦っていました。けれども、どれも中途半端なまま続かず、かえって「やっぱり自分には無理だ」という気持ちを強めてしまっていたのです。やり方が逆になっていました。

転機は、勉強会で他の会員さんの話を聞いたことでした。新しいことを足すのではなく、これまでやってきたことを棚卸しすればいい。そう気づいた及川さんは、部長時代に若手の生産現場の悩み相談に何百回と乗ってきた経験に目を向けました。それを小さな製造業の現場改善の助言という形で、知人の工場に無料で持ち込んでみたのです。

すると、現場の段取りが目に見えて変わり、工場長から「次はあの工程も見てほしい」と頼まれました。同じ悩みを抱えた別の工場を紹介され、気づけば「及川さんに見てもらいたい」と名指しで声がかかるようになっていったのです。新しい何かになろうとするのをやめ、これまでの自分を差し出した瞬間に、止まっていた準備が動き出しました

及川さんが特別だったわけではありません。役職定年で外れたのは肩書きであって、現場で頼られてきた中身はそのまま残っていた。それを外で使える形にしただけなのです。

よくある質問

役職定年からの準備について、相談の現場でよくいただく質問にお答えします。

Q. 会社に勤めたまま準備を始めて、就業規則に触れませんか?

多くの場合、無料の手伝いや小さな試行の段階では問題になりにくいのですが、勤め先によって規定は異なります。まずはご自身の会社の就業規則で、社外活動や収入を伴う仕事に関する条項を一度確認しておきましょう。確認したうえで動けば、余計な不安を抱えずに済みます。

Q. 定年まで数年しかありませんが、それでも間に合いますか?

数年は、信用を一から積み直すには十分な時間です。新しい資格を取ったり大きな投資をしたりする話ではなく、すでにあるものを外で使える形に整えるだけだからです。むしろ会社という後ろ盾がまだある今のうちに小さく試せることが、定年後にゼロから始めるより大きな強みになります。

5年後の定年に向けて50代でやっておきたい起業準備の現実的な順番
「あと5年で定年か。同期はもう動いているらしいけれど、自分は何から手を付ければいいのかわからない」。先日、起業

役職定年で下がったのは給料と肩書きであって、あなたが積んできた中身ではありません。まずは定年までの残り年数を数え、そのうち何年を準備に充てるかを一つ決めてみる。それだけで、これから仕込むものの輪郭がはっきりしてきます。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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