記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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金曜の夜、都内のオフィスで終電を気にしながら、軽井沢の高原の写真をスマホで眺める。「あの場所で、好きなことを仕事にできたら」。そう思ったことがある方は、けっして少なくありません。
軽井沢は別荘地のイメージが強いのですが、いまは移住して仕事を持つ人が確実に増えている町です。とはいえ、勢いで移住してから「何で食べるか」を探し始めると、たいてい行き詰まります。
この記事では、勤めを続けながら軽井沢で起業の準備を進める現実的な順番を、26年の起業支援の現場で見てきたことをもとに整理していきます。
軽井沢で起業が現実的になった理由

東京から新幹線で約70分という距離感
軽井沢は、いわゆる「遠い田舎への移住」とは事情が違います。軽井沢駅から東京駅までは北陸新幹線で約1時間から1時間15分です。朝の出社にぎりぎり間に合う距離なので、会社員を続けたまま二拠点で暮らす人が現実に存在します。この距離感が、軽井沢起業の前提を大きく変えています。
平日は東京で会社員、週末と長期休みは軽井沢で事業の準備。そういう進め方ができるのは、新幹線で通える移住先ならではの強みです。いきなり会社を辞めて移住するのではなく、二拠点から始められる点が、軽井沢のいちばんの利点です。
人口が増え続けている数少ない町
軽井沢町は、全国の多くの町村が人口を減らすなかで、一貫して人口が増えています。公益社団法人全日本不動産協会の月刊不動産によれば、軽井沢町の人口は2021年11月時点で住民基本台帳ベースで2万1千人を超え、近年は転入が転出を上回る状態が続いてきました。
移住者が増えれば、その人たちに向けた新しいサービスの余地も生まれます。観光客だけでなく、定住する人や二拠点で暮らす人という顧客層が育っている町。ここに、会社員が始めやすい事業の芽があります。
軽井沢町の創業支援制度と知っておきたい順番

軽井沢町は、産業競争力強化法にもとづく創業支援等事業を実施しています。町の観光経済課と軽井沢町商工会が連携し、これから起業する人や創業から間もない人の相談に対応する仕組みです。こうした制度は、何を売るかの方向性が固まったあとに使うと効果が大きい道具です。
なかでも知っておきたいのが、特定創業支援等事業です。これは経営・財務・人材育成・販路開拓という4分野を一定期間学んだ人に、自治体が証明書を出す仕組みです。証明書があると、会社設立時の登録免許税が軽減されます。中小企業庁によると、こうした創業支援等事業計画は令和7年12月25日時点で全国1,390件(1,555市区町村)が認定されており、軽井沢町もその一つです。
ここで順番を間違えないことが大切です。補助金や相談窓口は、行き先が決まった人にとっては強力な味方になります。一方で、何をやるか見えていない段階で窓口を訪ねても、担当の方も答えようがありません。制度は「使える道具」であって、起業の出発点ではないのです。まずは自分の事業の方向を固める。順番はそこからです。
軽井沢で会社員が始めやすい事業の方向

拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』にこんな言葉が出てきます。起業ビジネスには4つのカテゴリーがあり、スペース系・プロダクト系・スキル系・ノウハウ系のうち、いちばんリスクが少なくてすぐ始められるのはノウハウ系だ、という整理です。知識や経験を伝える事業は、初期投資がほとんどかからないからです。
軽井沢で起業を考えるとき、つい「カフェを開く」「宿を持つ」といった、お金と場所がいる形を思い浮かべがちです。けれど勤めながら準備するなら、まずは手持ちの知識や経験を起点にしたほうが、無理なく続きます。
二拠点だからこそ成り立つ事業を選ぶ
軽井沢起業で見落とされやすいのが、二拠点・関係人口というモデルです。いきなり完全移住しなくても、東京での仕事を続けながら、週末に軽井沢で動かせる事業はあります。たとえば次のような形です。
- 都内の本業で培った専門知識を、オンライン講座やコンサルとして平日夜に提供する
- 軽井沢に通う移住検討者向けに、町の暮らしや物件選びの情報を発信する
- 週末だけ軽井沢の貸スペースを使い、少人数のワークショップや教室を開く
- 別荘オーナーや二拠点生活者という、軽井沢ならではの顧客に向けたサービスを設計する
どれも、会社を辞めずに小さく試せる形です。軽井沢で何をやるか迷ったら、まず「好きなこと」と「すでに持っている経験」が重なる場所から探すのが近道です。場所や設備を先に用意するのではなく、自分の中にある売り物を先に見つける。順番を逆にしないことが肝心です。
会社員から二拠点起業に進んだ西村さんの例

起業18フォーラムの会員さんに、軽井沢で二拠点起業を進めた西村さんという方がいます。都内のメーカーに勤める50代で、軽井沢の別荘に家族で通ううちに、この町で何かやりたいと考えるようになった方でした。
最初は自己流で動いていました。軽井沢で写真教室を開こうと、いきなり会場を借りて告知をしたのですが、申し込みはほとんど集まりませんでした。観光で訪れる人に頼ろうとして、誰に届けたいのかが定まっていなかったのです。場所と告知を先に用意して、肝心の「誰の何を解決するか」が後回しになっていたのが原因でした。
その後、西村さんは起業18フォーラムの勉強会に参加しました。そこで学んだのは、自分の経験を起点に、届ける相手を一人に絞ってから商品を組み立てるという考え方でした。軽井沢に通う移住検討者や二拠点生活者にしぼり、「思い出の写真を整理して残す講座」という形に作り直しました。
平日は会社員を続けたまま、週末に少人数で開く形にしたところ、口コミで参加者が増えていきました。いまは月に数回の講座を安定して開きながら、移住の時期を家族と相談している段階です。通う期間に町とのつながりを育て、関係人口として事業を立ち上げてから移住を考えるのが、軽井沢では現実的な順番です。
- 知:
本業で培った経験を、軽井沢に通う人向けの講座という形に翻訳した - 人:
観光客ではなく、移住検討者や二拠点生活者という顧客を一人に絞り込んだ - 金:
会場を先に借りるのをやめ、週末だけ小さく開く形で初期費用を抑えた
軽井沢起業のよくある質問

Q.会社を辞めてから軽井沢に移住したほうがいいですか?
順番としては逆をおすすめします。軽井沢は新幹線で東京まで約70分なので、勤めを続けながら週末に通い、事業の形が見えてから移住を考えても遅くありません。収入の柱がある状態で準備するほうが、判断を焦らずに済みます。
Q.軽井沢で起業すると、町から補助金はもらえますか?
軽井沢町は産業競争力強化法にもとづく創業支援等事業を実施しています。特定創業支援等事業の証明を受ければ、会社設立時の登録免許税が軽減されます。住宅の省エネ改修などへの補助もあるので、町の公式ページや商工会で最新の条件を確認してください。
Q.観光客向けの商売しか向いていないのでしょうか?
そんなことはありません。軽井沢は移住者や二拠点生活者が増えているので、その人たちに向けたサービスにも余地があります。観光客に頼らず、定住層や通う人を顧客に想定すると、季節に左右されにくい事業を組み立てやすくなります。
Q.特別なスキルがなくても軽井沢で起業できますか?
会社で積んできた経験そのものが、立派な売り物になります。知識や経験を伝えるノウハウ系の事業は初期投資がほとんどかからず、最初の一歩に向いています。まずは自分の経験のどこに需要があるかを棚卸しすることから始めてください。
軽井沢で起業するための最初の一歩

軽井沢での起業は、移住してから考えるのではなく、勤めを続けながら準備を始めるのが安全です。進め方の順番を、もう一度整理します。
まずは起業18フォーラムの動画やセミナーで、起業の基礎と全体像をつかんでください。何で食べていくか、自分の経験のどこが売り物になるか。ここが固まらないうちに動くと、西村さんの最初のように空回りしやすいのです。
方向性が見えてきたら、軽井沢町の創業支援等事業や商工会の相談窓口、移住相談を使い始めます。行き先が決まってから制度を使うと、登録免許税の軽減や専門家の助言が一気に役立ちます。そのうえで、いきなり完全移住に踏み切らず、二拠点や関係人口から段階的に進めるのが堅実です。お試し移住や期間限定の滞在も、相性を確かめる選択肢になります。
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