記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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● 質問
メーカーで品質管理やデータ分析の仕事をしてきましたが、特別な資格もなく、社外で通用する強みが自分にあるとは思えません。
漠然と「いつかは自分で何かやってみたい」という気持ちはあるのですが、製造業の中だけで通用してきた経験に、お金を払ってくれる人がいるとは想像できません。
こういう技術職の経験は、起業準備に活かせるものなのでしょうか?

● 回答
起業18フォーラムに、まさに同じ悩みで来られた方がいます。篠藤さん(仮名・33歳・食品メーカーのデータ分析職・夫婦のみ)は、「自分は社内の数字をいじっていただけで、人に教えられるものなんて何もない」と話していました。
最初は流行りのデータ分析講座を真似てオンライン教材を作ろうとしたのですが、世の中の専門家と比べて見劣りする気がして、公開する前に止まってしまったそうです。
転機は、勉強会で「あなたの会社では、その分析を誰のためにやっていましたか」と問われたことでした。篠藤さんの仕事は高度な統計ではなく、現場の人が判断に使える形で売上データを整える作業が中心でした。本人が「ただの雑用」と思っていた部分こそ、データに不慣れな中小企業が一番欲しがっている力だったのです。
技術職が強みを見失う理由
製造業や技術職の方が強みを見つけにくいのには、はっきりした理由があります。社内では全員が同じ専門用語を共有しているため、自分の知識が「当たり前」に見えてしまうのです。毎日やっていることほど価値を感じにくくなる。これは能力の問題ではなく、距離の問題です。
うまく強みを見つけられる人と、見つけられないまま終わる人の違いは、難しい技術を持っているかどうかではありません。自分の知識を「業界の外の人」の視点で見直せるかどうかだけです。篠藤さんと、同じ職場で同じスキルを持ちながら「自分には何もない」と言い続けた人の差も、まさにそこにありました。
「穴」から逆算して経験を見直す
拙著『起業神100則』に出てくる「ドリルを売るな、穴を売れ」という言葉があります。お客さんが本当に欲しいのはドリルという道具そのものではなく、空いた穴のほうだ、という有名なたとえです。これを技術職の強み探しに当てはめると、「自分が何を持っているか」ではなく「相手のどんな困りごとを消せるか」から逆算することになります。
篠藤さんは自分の分析スキル(ドリル)を売ろうとして止まっていました。けれど、中小企業が抱える「数字はあるのに何を意味するか分からない」という不安(穴)に目を向けた瞬間、提供できることが一気に具体的になったのです。
この「どんな穴を埋めるか」という発想は、感覚論にとどまりません。中小企業庁の2024年版中小企業白書でも、付加価値に見合った価格設定と顧客ターゲットの明確化が、小規模事業者の売上を左右する要素として挙げられています。誰の、どんな穴を埋めるのかを決めることが、その第一歩になります。
- 自分の業務を「相手の困りごと」に翻訳して書き出す
- その困りごとを抱えていそうな業界の外の人を想像する
- 専門用語を一切使わずに自分の仕事を説明してみる
篠藤さんはその後、中小企業向けに売上分析レポートを1件8万円で提供する形に整えました。勤めを続けながら数を重ね、11ヶ月目には月18万円で落ち着きます。「社内で雑用だと思っていた作業が、外ではこんなに喜ばれるのか」と驚いていました。
今夜、自分の仕事を専門用語を使わずに小学生に説明するつもりで3行だけ書いてみてください。
業界の言葉を外した瞬間に、相手の困りごとと自分の経験がつながる場所が見えてきます。まずは身近な一人を思い浮かべることから始めると、その人に何を渡せるかの輪郭がはっきりしてきます。
翻訳の作業に慣れてきたら、次は相手の反応を確かめる番です。来週、その相手に「こんなことで困っていない?」と一度だけ聞いてみてください。

強みは新しく身につけるものではなく、すでに持っているものの向きを変えることで見えてきます。ものづくりの現場で培った正確さは、外の世界では十分に希少な力です。
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