記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
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「ニセコはもう外資と富裕層の町で、普通の日本人が商売を始める隙はない」。そう言われて、調べる手が止まった方は多いはずです。26年間で6万人を超える起業準備の相談に向き合ってきた立場から言うと、この見方は半分しか当たっていません。
確かに山麓の一等地は外資系リゾートが押さえています。けれど、外貨が流れ込む町には、外資が手を出さない仕事が必ず残ります。この記事では、倶知安町・ニセコ町の公表統計と支援制度をもとに、季節商売で終わらない事業の入り方を整理します。
数字で見るニセコ:人口2万人台の町に20万人泊

住む人の数と、泊まる人の数の桁が違う
ニセコエリアの中心は、北海道後志地方の倶知安町とニセコ町です。倶知安町の人口は約1万7,000人で、うち外国人住民が約3,600人を占めます(2025年1月・住民基本台帳)。ニセコ町は約5,500人。ふたつ合わせて約2.3万人の生活圏になります。
東京からは羽田と新千歳を結ぶ空路がおよそ1時間半、新千歳空港から車でおよそ2時間の距離です。冬の積雪期はバスや送迎の便も増え、空港からの動線は観光地らしく整っています。
一方、訪れる側の数字は桁が違います。後志総合振興局「令和6年度管内観光入込客数の概要」によると、2024年度のニセコ町における外国人宿泊延数は203,245人泊で、前年度から約25%増えました。人口5,500人の町に、その36倍を超える延べ宿泊が積み上がる計算です。
ただし、この宿泊は冬に集中しています。12月から3月までの4カ月だけで、年間延数の約7〜8割を占めます。雪が世界の客を連れてくる一方で、春から秋は人の流れが細くなります。ニセコで商売を考えるなら、この偏りを直視するところがスタート地点です。
外資とローカルの「間」に残る事業領域

華やかな土俵に乗らない、という選び方
偏った数字を見て「自分には関係のない町だ」と引き返すのは早すぎます。考えるべきは、どの土俵で勝負するかです。外資系リゾートと同じ宿泊や高級飲食の土俵に乗ると、資金力の差で勝負になりません。かといって、需要のない場所で店を開いても続きません。
拙著『会社員が働きながら月30万円を稼ぐ起業法』では、ブルーオーシャンとレッドオーシャンの間を狙う、という現実路線の考え方を紹介しています。競合がひしめく赤い海でもなく、需要があるか分からない真っ青な海でもなく、その中間に立つ発想です。
ニセコに当てはめると、答えの場所がはっきりします。外資が取り合う冬の観光最前線と、誰も来ない荒野の間にこそ、日本人が通年で食べていける仕事が残っています。具体的には、町に暮らす人と、町で商売をする事業者に向けた仕事です。
- 事業者の裏方支援:
宿泊施設や飲食店の予約管理・経理・採用まわりなど、季節を問わず発生する業務の代行 - 住民・移住者向けサービス:
増えている外国人住民や移住者の生活手続き・住まいの困りごとを、日本語と英語の間で橋渡し - 建物と設備の管理:
別荘やコンドミニアムの留守中の見回り、補修手配など、オーナー不在期に生まれる仕事
どれも派手ではありません。けれど、外貨が落ちる町では裏方の仕事にも観光地の相場がつきます。山麓の華やかさから一歩引いた場所に、長く続く需要が転がっています。
倶知安町・ニセコ町で使える創業支援制度

町・国・道の三層で支援がそろっている
制度面も知っておいて損はありません。倶知安町の創業等支援事業補助金は、店舗の改修や設備、広告宣伝などの経費を対象に最大200万円を補助します。倶知安商工会議所が実施するビジネススクールの受講が要件になっています。
両町は、国の認定を受けた特定創業支援等事業も実施しています。所定のセミナーや相談を受けて町の証明書をもらうと、株式会社設立時の登録免許税が半額になります。日本政策金融公庫の創業向け融資で利率引き下げの対象になるなど、お金の借りやすさにも直結する制度です。
北海道全体では、デジタル技術を使って地域の課題を解決する起業に最大200万円を補助する、地域課題解決型起業支援事業があります。宿泊施設の人手不足や多言語対応はニセコエリアの代表的な地域課題ですから、相性の良い制度です。2026年度の一次募集は5月末で締め切られているため、追加募集や次年度の日程は事務局への確認が必要になります。
- 倶知安町創業等支援事業補助金:
創業者向けに対象経費の一部・最大200万円を補助。商工会議所のビジネススクール受講が要件 - 特定創業支援等事業(倶知安町・ニセコ町):
受講証明により登録免許税の半額軽減や融資・保証の優遇 - 北海道の地域課題解決型起業支援事業:
デジタル技術で地域課題を解決する起業に最大200万円。年度ごとに募集期間あり
並べると心強い制度群ですが、これは「何を売るか」が決まった人のための道具です。方向性が見えないうちに申請を急ぐより、まず自分が外資とローカルの間のどこに立つかを決めてください。金額や要件は年度ごとに見直されるため、最新の内容は各町の窓口で確かめるのが確実です。
後志・ニセコに通っていた人がたどる道筋

統計の「谷」を見て、商売の軸が変わる
ニセコエリアの規模の町で参考になるのは、ひとりの派手な成功談ではなく、多くの人に共通する道筋のほうです。スキーで後志・ニセコに通っていた首都圏の会社員に、私が繰り返し見てきた流れがあります。
始まりは雪です。年に何度も通ううちに「いつかこの町で」と考え、最初は自己流で、レンタルや送迎のような冬季限定の商売を思い描きます。ところが町の観光統計を開くと、冬の派手な数字の隣で、春から秋の宿泊が驚くほど細い。漠然とした憧れが、「冬しかない町で冬以外をどう埋めるかこそ商機だ」という確信に変わる瞬間です。
そこから勉強会で事業の組み立てを学び直し、軸足を冬の観光客から、通年で町にいる事業者と住民に移していきます。宿の繁忙期を支える裏方業務を冬の柱にしつつ、雪のない季節は施設管理や移住希望者向けの情報発信を請け負う形です。
初年度は売上の大半が冬の4カ月に偏っていたものが、年を追うごとに冬以外の月の構成比が上がり、半分近くをオフシーズンが支える形に変わっていきます。山をひとつ高くするのではなく、谷を埋める。ニセコで長く続けている人は、おおむねこの順路をたどっています。
よくある質問

英語ができないと、ニセコでの起業は難しいですか?
接客の最前線に立つなら英語は要ります。ただ、本文で挙げた事業者向けの裏方業務や、日本側の手続きを支える仕事は、むしろ日本語の正確さが武器になる領域です。語学は事業を始めてからでも補えます。
倶知安町とニセコ町、どちらで開業するのがよいですか?
商圏としてはひと続きです。住まいの家賃、対象にしたい客層、通いやすさで決めるのが現実的でしょう。創業支援は両町にあるため、先に両方の窓口で話を聞いてから判断しても遅くありません。
雪のない季節に仕事は本当にあるのですか?
夏のニセコにもラフティングなどの体験観光はありますが、規模は冬に及びません。だからこそ、観光の波に左右されない住民向け・事業者向けの仕事を持つ人が、結果として一年を通して稼いでいます。
ニセコへの一歩を、申し込みから始める

方向性が先、制度はその次
順番だけ間違えないでください。先に「外資とローカルの間のどこに立つか」という方向性を固めます。起業18フォーラムでは、勤め先を辞める前の段階からこの土台を作る進め方を扱っています。
方向性が見えてきたら、制度の出番です。倶知安商工会議所のビジネススクールや両町の創業相談は、特定創業支援等事業として国に認定された入口で、受講そのものが事業計画の壁打ちの場になります。

移住して腰を据えるのも、当面は冬だけ通って関係を作るのも、どちらも立派な選択です。決めるのは、町の数字と自分の足の両方で確かめたあとで構いません。
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