記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:
● 質問
生まれ育った町を離れたくないのですが、人口が毎年減っていて、お店をやっても来てくれる人がいるのか不安です。役場で臨時の仕事をしながら、いつか自分の小さな仕事を持ちたいと考えています。
こんなに商圏が狭い中山間の町でも、起業の準備を進めて成り立たせることはできるのでしょうか?

● 回答
町の人口が減っていくのを毎日見ながら、それでも離れたくないと思う。その気持ちと「商圏が狭い」という現実のあいだで、足が止まっているのですね。まず申し上げたいのは、あなたが不安に感じている「商圏の狭さ」は、町の中だけで客を数えているから生まれているということです。客は町内にしかいない、という前提を一度外すと、景色が変わります。
「商圏=町内」という前提を疑うところから
過疎の町で起業を考える人の多くが、まず近所の人口を数えます。そして「これだけしかいないなら無理だ」と結論づけてしまう。私が26年の起業支援の現場で見てきた中山間地域の方にも、この数え方でつまずく人がとても多いのです。
けれども、商圏を「町内」に固定する必要はどこにもありません。町に住みながら、客は町の外に持つ。この設計が組めるかどうかが、人口減の町で長く続く起業の分かれ目になります。
数字で見ても、中山間は「少数派の人が多く暮らす場所」
そのぶん、自分の置かれた状況を数字で正確につかんでおくと、不安の輪郭がはっきりします。総務省「過疎対策の現況」(令和5年度版・2024年公表)によると、過疎地域に指定された市町村は全国で885、全市町村の51.5%にのぼります。町の数では半分が過疎地域です。
一方で、そこに住む人口は全国の9.3%にとどまります。つまり中山間の町は「数は多いのに、人は少ない場所」なのです。町内だけを商圏にすれば客が薄いのは当たり前で、あなたの不安は思い込みではなく、構造そのものから来ています。だからこそ、町の外に目を向ける設計が要るのです。
「連想リサーチ法」で、商圏を町の外へ広げる
では、どうやって町の外に客を見つけるのか。ここで役に立つのが、拙著『起業がうまくいった人は一年目に何をしたか?』で紹介している「連想リサーチ法」という考え方です。
これは、すでに自分が知っていること・持っているものを出発点にして、そこから連想を広げて事業の種を探していく発想法です。段階を踏んで検証していく手法とは違い、「発想の入口をどれだけ外に広げられるか」に重きを置きます。たとえば、あなたが毎日見ている町の山菜や祭り、空き家、過疎の暮らしそのものを起点に、「これを知りたい人は町の外のどこにいるか」と連想をつないでいくのです。
- 町の素材から外へ:
山菜の下処理を、都会で郷土料理を学びたい人にオンラインで教える - 暮らしから外へ:
移住を検討する人に、町でのリアルな生活を有料の相談で伝える - 困りごとから外へ:
空き家の管理に困る遠方の持ち主に、見回りと報告を代行する
どれも、客は町の中にいません。けれど元になる素材は、あなたが町に住んでいるからこそ持っているものばかりです。今日できることは、自分が町について人より少し詳しいと思えることを、紙に3つ書き出してみることです。それが連想の出発点になります。
「関係人口」という、すでにある追い風
町の外に客を求めるとき、心強い後ろ盾があります。それが「関係人口」です。移住者でも観光客でもなく、その地域に継続的に関わる人たちのことを指します。総務省は二地域居住・関係人口のポータルサイトを設け、地域との関わりを後押ししています。
国土交通省の「地域との関わりについてのアンケート」(令和5年度調査)では、全国の18歳以上の約2割強、推計で約2,263万人が、特定の地域に継続的に関わる関係人口にあたると報告されています。あなたの町を「もう一つの居場所」にしたいと思っている都市部の人は、想像よりずっと多いのです。
狭い商圏という壁の向こうに、町に関わりたい人がこれだけいる。この事実を知っておくだけで、起業準備の前提は大きく変わります。
役場の臨時職員から、月6.5万円までの3か月
具体的な例をお話しします。起業18フォーラムの会員に、椎葉さんという30代の方がいます。中山間の町で役場の臨時職員をしながら、いつか自分の仕事を持ちたいと考えていました。
最初の椎葉さんは、まさに「町の中で客を数える」やり方でした。町内向けの手作り雑貨の販売を考えましたが、買ってくれそうな人の顔が浮かばず、半年近く動けずにいたそうです。転機になったのは、役場の仕事で関わった地域おこしの活動でした。そこで出会った都市部の関係人口の人たちが、町の暮らしや郷土食に強い関心を持っていることに気づいたのです。
起業18フォーラムの勉強会でその気づきを話したところ、「町内ではなく、その人たちに向けて設計し直してみては」と助言を受けました。椎葉さんは雑貨をいったん手放し、町に通う関係人口の人へ向けて、郷土食の作り方をオンラインで教える小さな講座に切り替えたのです。
準備を始めて3か月目に初めての受注が入り、半年後には月6.5万円ほどの収入になりました。今は、講座に来た人が町を訪れる動線づくりにも取り組んでいます。
- 客を町内で数えず、町に関わりたい外の人へ向けて設計
- 町に住むからこそ持てる素材(郷土食)を出発点にする
- 最初の客はオンラインの一人から。小さく始めて手応えを確かめる
椎葉さんが特別な技能を持っていたわけではありません。町の暮らしという、本人が当たり前に思っていたものを、外の人にとっての価値に変えただけです。
補助金や移住施策は、方向が決まってから
中山間の自治体には、創業支援の補助金や地域おこしの制度が用意されていることがあります。ただ、こうした制度は「何を、誰に売るのか」が定まってから効いてくる道具です。制度を調べることを起業準備の最初の行動にすると、書類の世界に入り込んで肝心の事業の中身が後回しになりがちです。まず連想で事業の種を広げ、向ける相手を決める。その順番を守ってください。
商圏が狭いという不安は、町の外に目を向けた瞬間に、形を変えはじめます。あなたが離れたくないと思うその町は、外の人から見れば「関わってみたい場所」かもしれないのです。まずは町の地域おこしの集まりに一度顔を出し、外から来ている人が町の何に関心を持っているのかを、その場で一つ聞いてみてください。
細くても、自分の手で続けられる仕事を、生まれ育った町で持つ。その道は、今いる場所のままで十分に描けます。

町の人口に縛られない設計図は、思い立った今日から少しずつ書き始められます。まずは、自分が町について語れることを3つ書き出すところから、はじめてみてください。
さらに詳しく知るには、以下より検索してみてください!
★【起業セミナー】会社員のまま始める起業準備・6ヵ月で起業する!
★【動画セミナー】あなたのタイミングで学べる動画版もあります!
