長距離ドライバーの経験で起業できる? 地理勘と車両運用をどう売るか

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

● 質問

40代で長距離トラックの運転手をしています。20年近くハンドルを握ってきましたが、誇れる資格があるわけでもなく、結局このまま運ぶ仕事しかできないのかと感じています。雇われて荷物を運ぶ以外に道はないのでしょうか。

運送の経験で起業なんて、現実的に考えられるものなのでしょうか?

起業前質問集

● 回答

運ぶ仕事しかしてこなかった。その言葉の奥にある「自分には何も残っていないのでは」という気持ち、よくわかります。長く現場にいた方ほど、自分の経験を低く見積もってしまいます。

けれど、ここはきっぱりお伝えします。運送の経験は起業に活かせます。むしろ、あなたが当たり前にやってきたことの中に、いま地域で足りていないものが眠っています。誤解されやすい点から順に解きほぐしていきます。

「運転しかできない」は、半分しか見ていない

運送の仕事を「ハンドルを握ること」だと思っているうちは、たしかに起業のネタは見つかりません。けれど実際にあなたがやってきたのは、運転だけではないはずです。どの道がこの時間帯に詰まるか、この荷物はどう積めば崩れないか、初めての配送先でも迷わず着く段取りをどう組むか。こうした判断を、毎日無意識にこなしてきました。

運送経験の価値は運転技術そのものではなく、地理勘・段取り・荷扱いという、外から見えにくい現場の判断力にあります。ここを見落とすと、自分には売るものがないという結論に早合点してしまいます。

実際、いま運送の現場は人手が足りていません。2024年4月から、トラックなど自動車運転者の時間外労働に年960時間の上限が設けられ、あわせて拘束時間の基準も見直されました(国土交通省・厚生労働省)。これがいわゆる物流の2024年問題です。運べる量そのものが細くなり、大きな会社が拾いきれない小さな配送の隙間が、地域のあちこちに生まれています。

運送経験を「商品」に変える発想の転換

では、その経験をどう売るか。手がかりになる考え方が、拙著『会社を辞めずにあと「5万円!」稼ぐ』にあります。この本では、小さな起業の種を、プロダクト・スキル・ノウハウ・スペースの4つに分けて整理しています。なかでも見落とされやすいのが、自分の空き時間や空き容量という「スペース」を売るという発想です。

運送経験者にとっての「スペース」は、たとえば自分が動ける時間帯と、軽自動車1台分の積載です。決まった時間に、決まったエリアを、確実に回れる。これは多くの会社員には持てない資産です。地域の小さな店や事業者は、毎日少量の荷物を近場へ届けたいのに、大手に頼むには量が足りず困っています。あなたの空き時間と車両を、その細かな配送ニーズにそのまま当てはめれば、それが商品になります。

運送経験を売り物に変える切り口

  • 地域の定期配送:
    近所の飲食店や小売店の決まった荷物を、決まった時間に届ける軽貨物の仕事
  • 地理勘の商品化:
    渋滞や時間帯の癖を読んだ効率的なルート設計を、配送代行の付加価値にする
  • 同業への裏方支援:
    個人で運ぶ人が増えるなか、荷扱いや積載の段取りを教える伴走役という道

最初から運送会社のような看板を背負う必要はありません。軽貨物の運送、いわゆる貨物軽自動車運送事業は、許可制の一般貨物と違って運輸支局への届出で始められ、黒ナンバーを取得してから営業できます(国土交通省)。最初の一歩は、いきなり車を増やすことではなく、自宅から無理なく回れる範囲で「決まった荷物・決まったルート」を引き受けられないか、近くの店に1軒ずつ聞いてみることです。

月4万5千円から始めた、ある長距離ドライバーの歩み

起業18フォーラム会員の妻木さん(仮名・40代・長距離ドライバー)も、長年「自分には運ぶこと以外に取り柄がない」と思い込んでいました。ところが転機は、思いがけない方向からやってきます。いつも荷物を受け取っていた地元の食品加工の荷主から、ある日「決まった便を、あなたに直接頼めないか」と相談されたのです。

大手の便では融通がきかず、小回りのきく配送を探していたのだといいます。妻木さんは半信半疑のまま、休みの日に軽自動車で週に数回だけ引き受けてみました。最初の8か月は、勤めを続けながら月4万5千円ほどの収入でした。金額は決して大きくありません。それでも、自分で時間を決め、自分の名前で頼まれて運ぶという経験は、雇われて走っていたころとは手応えがまるで違ったそうです。

その後、最初の荷主が別の店を紹介してくれ、回る先が少しずつ増えていきました。妻木さんを動かしたのは新しい資格ではなく、20年かけて体に染み込ませた地理勘と、確実に届けるという信用でした。あなたが今日できることは、これまで現場で頼まれて運んできた「決まった荷物・決まったルート」を、ノートに10個書き出してみるだけで十分です。

自分に売れる強みなんてないと感じるとき、どこを探せばいい?
● 質問 起業準備を始めたいのですが、自分には人に誇れるような強みやスキルが何もない気がして、入口で止まってい

運ぶ仕事しかしてこなかった。そう感じている方ほど、自分の足元にある資産に気づいていないだけなのかもしれません。長時間労働の象徴のように語られる運送の経験は、見方を変えれば、地域の細かなニーズと自分の時間をつなぐ力に変わります。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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