熱海で起業する始め方|温泉観光の街で会社員から始める現実的な手順

新井一

記事執筆/監修:新井一(起業18フォーラム代表)
最終更新日:

シャッターの目立った商店街が、ここ十数年でカフェやゲストハウスの並ぶ通りへ変わっていった。熱海という街を歩くと、そんな「再生のあと」をあちこちで見かけます。温泉と海の観光地というイメージの裏で、実は事業を始める足場として、いま静かに注目され始めている場所です。

とはいえ、観光客が行き交う街で自分が食べていけるのか、いきなり移り住んで大丈夫なのか、不安のほうが先に立つのも自然なことだと思います。

この記事では、熱海で起業を考える方に向けて、準備の順番と使える制度を具体的に整理していきます。

ポイント 熱海で起業する強み:東京から45分の観光再生の街

新幹線45分圏・宿泊客306万人回復・別荘文化

熱海

熱海の一番の強みは、東京とのアクセスの近さです。東京駅から新幹線ひかりで約40分、こだまで約50分、特急踊り子でも1時間20分ほどで着く距離は、二拠点で事業を始める足場として現実的な範囲に収まります。軽井沢や鎌倉のような「移住=覚悟」の重さがなく、週末に通いながら様子を見られるのが、熱海ならではの始めやすさです。

数字でも、街の地力は戻りつつあります。熱海市の年間宿泊客数は、入湯税ベースで2024年に306万4,731人まで回復しました(熱海市発表・2025年2月26日)。前年から約24万人増えて5年ぶりに300万人台に達し、コロナ禍前の2019年比では98.3%までほぼ回復した形で、観光という大きなお金の流れが、いまも街を流れているということです。

人口減と高齢化が、逆に「すき間」を生んでいる

一方で、街の内側に目を向けると、別の現実も見えてきます。熱海市の人口は約3.3万人(2025年住民基本台帳ベース)で、高齢化率は48.7%と全国平均の約29%を大きく上回っています(2020年国勢調査)。働き手が減り、店主の世代交代が進まない場所には、新しく入る人にとっての「すき間」が生まれます。観光のにぎわいと、担い手の不足。この二つが同時にある街は、外から来た人が役割を見つけやすい街でもあるのです。

熱海が他の温泉地と違うのは、衰退から再生へ向かう動きが民間の手で進んだ点にあります。中心市街地のリノベーションまちづくりを担うmachimoriは2011年10月に設立され、空き店舗だった建物がカフェやゲストハウス、コワーキングスペースへと姿を変えてきました(machimori 公式情報)。観光地という看板の下で、街の中身がつくり替えられている。これが熱海で事業を始める人にとっての土台になります。

ポイント 知っておきたい支援制度:移住・起業の補助金と税の軽減

移住就業支援金・県の起業支援金・登録免許税減免

熱海

方向性がまだ固まっていない段階でも、どんな制度があるかを「あとで使う道具」として頭に入れておくと、準備が進んだときに動きが速くなります。熱海で起業する会社員が知っておきたい制度は、大きく3つあります。

  • 移住・就業支援金:
    東京圏から熱海市へ移住し、県の起業支援事業の交付決定を受けた場合などに、単身60万円・2人以上世帯100万円(18歳未満の子1人につき100万円加算)が交付される制度(熱海市・令和7年度)
  • 地域創生起業支援金:
    静岡県が実施する起業支援で、社会的事業の分野で要件を満たすと補助対象経費の1/2以内・最大200万円が補助される枠組み(静岡県・令和7年度)
  • 特定創業支援等事業:
    市の支援を受けて要件を満たすと、会社設立時の登録免許税が軽減される(株式会社で資本金の額×0.7%から0.35%へ)国の制度(中小企業庁)

ここで大事なのは、補助金は「何屋になるか」が見えてから効いてくる道具だということです。事業の方向が定まらないまま窓口に相談に行っても、担当者も具体的な助言を返しにくいのが実情です。まずは制度の存在だけ押さえておき、自分の事業の輪郭ができてから申請に動く。この順番を逆にしないことが、熱海に限らず移住先での起業を空回りさせないコツになります。

ポイント 熱海で始めやすい事業:観光と滞在を起点に考える

観光と滞在と別荘文化を活かす事業の方向性

熱海

熱海で会社員が始めやすい事業を考えるとき、起点になるのは「観光で動いているお金」と「滞在する人の時間」です。日帰りの観光客だけでなく、別荘を持つ人や二拠点で過ごす人が一定数いるのが、熱海の固有性です。短時間の名所案内ではなく、滞在する人に向けたサービスのほうに、後発でも入る余地があります。

いきなり移住しない。関係人口から入る道

熱海の入りやすさは、いきなり住まなくてよいところにあります。週末に通いながら、ゲストハウスやコワーキングを拠点に少しずつ関わりを増やす「関係人口」からの起業が、熱海では現実的な選択肢になります。東京の仕事を続けたまま、まず月に数回通って街の人と顔見知りになる。その延長で事業の芽を見つける道があります。

どんな事業が向くかを整理すると、次のような切り口が考えられます。

  • 滞在者向けのサービス:
    別荘の管理代行・二拠点生活者の暮らしのサポートなど、住む人の不便を解く事業
  • リモートワークと相性のよい仕事:
    いまの勤め先で培ったスキルをそのまま使えるオンライン中心の事業を、熱海を拠点に続ける形
  • 街のコンテンツ発信:
    再生していく街の様子や店を、外の人に届けるメディア・ガイド型の事業

熱海には、市とmachimoriが2016年から連携して開催している「99℃〜Startup Program for ATAMI2030〜」のように、街に関わる事業者を後押しする4か月間の創業支援プログラムもあります(machimori 公式情報)。最初の一歩を一人で踏み出すのが不安でも、同じ方向を向いた人が集まる場が街にあるのは、心強い材料です。

ポイント 会員さんの歩み:何屋かを一行で決めてから動いた海老沢さん

受け皿を先に持ち関係人口から始めた会員さんの例

熱海

起業18フォーラムの会員さんに、熱海に通いながら準備を進めた海老沢さん(40代・会社員)という方がいます。最初の海老沢さんは、温泉地への憧れだけが先に立ち、「移住して何かカフェでもできたら」とぼんやり考えていた状態でした。物件情報を眺める時間ばかりが増え、肝心の「自分が何を売るのか」は空白のまま、半年が過ぎていったといいます。

転機は、熱海で開かれた移住相談会で、地元でゲストハウスを営む事業者と言葉を交わしたことでした。そこで「お客さんに何を提供する人なのか、一行で言えますか」と問われ、自分には受け皿になる商品がないことに気づかされたのです。勢いで住む場所を探すより先に、自分が何屋かを決める。その順番の大切さに、ここで初めて向き合いました。

拙著『朝晩30分 好きなことで起業する』では、「好きなこと」と「求められていること」が重なるところに商品を置く考え方を紹介しています。海老沢さんの場合、長く続けてきた住宅設備の仕事と、熱海に増える二拠点生活者の困りごとが、ちょうど重なりました。そこから「別荘の不在中の管理と小修繕を引き受ける人」という一行を、自分の受け皿として先に掲げたのです。

受け皿が決まってからの動きは、それまでと別物でした。海老沢さんは勤めを続けながら、月に二、三回のペースで熱海に通い、コワーキングで知り合った人づてに最初の依頼を受けました。半年で数件だった仕事が、口コミで少しずつ広がり、一年を過ぎる頃には熱海での収入が会社の手取りの一部を補える規模になっていきました。いまは二拠点を保ちながら、移住の時期を自分のペースで見定めている段階です。

ポイント 熱海起業の最初の一歩:基礎を学んでから制度を使う順番

起業の基礎を整える順番と補助金など制度活用の手順

point

熱海で起業すると決めたら、動く順番を間違えないことが何より大切です。最初にやるべきは、物件探しでも補助金の申請でもありません。まず起業18フォーラムの動画やセミナーで起業の全体像と基礎を学び、自分が何屋になるのかという受け皿を一行で決めることが先決です。方向が見えてから、熱海市の移住・就業支援金や静岡県の地域創生起業支援金、特定創業支援等事業といった制度を道具として使えば、その効きはまるで変わってきます。

移住についても、一気に住まいを移す必要はありません。週末に通う関係人口から入り、お試し移住や期間限定の滞在で街との相性を確かめながら、段階的に拠点を移していけば十分です。熱海はその段階を踏みやすい、ちょうどよい距離にある街です。

今日できることは、次に熱海を訪れたときに、熱海銀座や糸川あたりの通りを「お客さんの目」で一日歩いてみるだけで十分です。どんな店に人が集まり、どんな不便が残っているか。その観察が、あなたの受け皿の最初の一行につながっていきます。

自分の名前で掲げた小さな看板は、たとえ温泉街の片隅でも、会社の名刺とは違う重みを持つはずです。その一枚を熱海の街に掲げる日を思い描きながら、まずは準備の順番を整えるところから始めていきましょう。


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記事執筆/監修:新井一(あらいはじめ)起業支援キャリアカウンセラー

新井一
起業18フォーラム代表。「会社で働きながら6カ月で起業する(ダイヤモンド社)」他、著書は国内外で全13冊。最小リスク、最短距離の起業ノウハウで、会社員や主婦を自立させてきた実績を持つ。自らも多数の実業を手掛け、幅広い相談に対応している。

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