後ろを見ると、前が見えてくる。だから僕は・・・

二子玉川の高島屋というデパートの屋上階に、昔ペットショップがあった。今はあるのかわからないけれど。となりには盆栽のような植物を売っているお店があった。
 

振り返り
 

そこに、一匹の目が離せなくなる犬がいた。それは、30年以上前のある晴れた日に、僕が両親に連れられて、高島屋の屋上に行った時のお話し。ようやく生活らしい生活ができるようになった極貧から立ち上がった親父が、一匹の犬の前に立ち止まっていた。コリー犬の赤ちゃんだった。僕は、その場で勝手に「ジョン」と名付けた。まだ、飼っても、買ってもいないのに。

一家で話し合いが始まった。「散歩行けるのか?」「食費っていくらくらいかかるんだ?」6階のファミリー食堂で、ホットケーキを食べながら議論が続く。

食後、再び屋上会へ。ジョンの前には人だかりができていた。可愛いが男前な犬だった。両親は、「僕が散歩にいくよ」と言ってほしそうだったが、僕は言えなかった。そもそも、犬の散歩なんてやったことなし、行ける自信もなかったし。
 

そうした議論の末、数日後に「ジョン」は我が家にやってきた。犬小屋を買ったが、将来を考えて大型犬用の小屋を買ったものだから、犬小屋の入り口とブロック塀との隙間が15センチほどしかないという、大型犬がとても通れない配置になっていた。

結果、僕の最初の仕事は、改めて新しい犬小屋を作ることに決まった。入り口の大きな、我が家の庭スペースに収まる最大の家を作る大仕事だ。日曜大工センターで資材を買い、あれこれとやった結果、牢屋のような作品ができあがった。風が吹いたらすぐに平行四辺形になった。それでも、ジョンは喜んで入居してくれた。
 

僕の父は、売れない小説家志望だった。そして、家族のためにその夢をあきらめ、サラリーマンとなり、その後に不動産業で独立した。そんな父と一緒に長い時間を過ごしたのは、この小学生の頃までだ。その後はいろいろあって、一家は離れ離れになった。

今思い出せば、この犬小屋作り、その後のジョンとの生活は、そんな父と僕をつないだ大切な「かすがい」だった。振り返ると、想い出があふれてくる。父は忙しい人だったから、一緒にいる時間はほとんどなかった。夜遅く帰宅して、疲れた顔をして寝ている姿ばかりを見ていた。ジョンはそんな父をいつも癒す存在だったと思う。家族は、父はもちろんのこと、そんなジョンの存在にも感謝していたはずだ。

ジョンは、今、僕の心の中にいる。中学2年の中間試験の最中、ジョンは他界した。僕がそれを知ったのは試験後。慌てて病院に行った時には、ジョンは静かに横たわっていた。
 

僕は起業をして、たまにこの「過去を振り返る」という作業をする。新しいことを始めるときは、過去に学び、未来を見据える。過去は後悔するために振り返るのではない。未来に進む道を、過去の自分から学び取るために振り返る。未来の自分は、自分に勇気を与え、過去の自分は、自分に自信を与えてくれる。

振り返りをしたところで、ビジネスがうまくいくアイデアがでてくるわけじゃない。問題が解決することもない。自分の能力が上がることもないし、直接何かの役に立つこともない。

それでも、記憶は自らの未来を形作るひとつのきっかけとなる。その時に感じたこと、楽しかったことを集めていけば、楽しい未来を再現できる。

僕はジョンとたくさんのことを約束した。「宿題が終わったら散歩に行くよ」とか「きちんと留守番をしていたら、クッキーをあげるよ」とか。そうした一つひとつの約束を守ってきたという小さな体験も、今の僕の何かを形成しているのだ。
 

起業18で振り返りを始める会員さんは、最初は不思議に思うだろう。「これと起業に何の関係があるんだろう?」って。それでもやってみてほしい。あの時の笑顔、感動、くやしさ、緊張、悲しさ、涙の意味に向き合ってほしいから。そして、それが未来につながるってことを、知ってもらいたいから。

あなたがもし、来年の今頃、今のあなたに、素晴らしい報告と感謝の言葉を伝えたいと思うのなら、まずはあなた自身を、あなたの過去をよく思い出してほしい。365日ずつ、一年ずつ、時計の針を戻しながら。
 



アイデア

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